7 脱ぎかけ 栗山麻衣
脱ぎかけの衣からやあと蛇出づる
俳人に句碑なめくぢに光る道
かたつむり出処進退決めかぬる
薄暑光そこに真新しき墓石
夏野には呟くやうに石のあり
身一つの勝負に出たきラムネ玉
細胞の隅々にまで新茶汲む
琉金は水の炎となりにけり
籐椅子の網目に深き眠りかな
蚕豆に実はブルース似合ひけり
愛国の叫び炎天下に刺さる
目配せを交はして蟻の擦れ違ふ
沈黙の泡となりゆくソーダ水
鉄棒を舐めれば鉄の味晩夏
片隅もまた世界なり月見草
古傷を沈めて眠る梅酒かな
秋の水ことば波紋となりて消ゆ
ゴスペルのごとき熱狂鮭上る
蓑虫の世を窺ひし目玉かな
葉先まで色なき風の染め上ぐる
秋麗グラニュー糖に銀の匙
放課後へたまに振り向きたき案山子
ゐのこづちかくれんぼへとくははりぬ
幸せに単位はあらず草の花
太陽にたうたう口を割る石榴
約束の檸檬をひとつ掌
月光に合はせギターを爪弾きぬ
秋の夜の一針ごとに延びゆかむ
酒蔵はピートの香り蔦紅葉
冬ぬくし猫のあくびは二段階
くしやみして魂すこしづつ抜ける
指先に本音ありけり懐手
大根に味染みるころ帰りたし
牡蠣割つて海の暗がり啜りたる
育てれば焚火の闇の濃くなりぬ
冬日向ひとりの人のふたりゐて
人恋ふる心小出しにインバネス
着膨れて今後のことは保留とす
ものの芽の徐々に解ける個包装
かたかたと足踏みミシン春の雪
逢ひたくてミモザばかりを眺めたる
すさまじきまで逢ひたくば猫の恋
十年は束の間ぶらんこ漕ぐうちに
紙風船突いて己の空気抜く
ものにみな影寄り添うて風光る
何もかも等しく孤独おぼろ月
春の夢指の先から覚めゆける
亀鳴くや書店に並ぶ幸福論
ひねくれし葉からまつすぐチューリップ
逃水を追ふ詮無きと知りつつも
2014-11-02
落選展2014_7 脱ぎかけ 栗山麻衣 _テキスト
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2 comments:
俳人に句碑なめくぢに光る道
句碑になめくぢが這っていたのだろうか。人は名を残し虎は皮を残すの変奏にも見えるが、なめくぢの光は生命の光であり、未来への道である。
ゴスペルのごとき熱狂鮭上る
鮭の川上りには確かに宗教的情熱がある。天に向かって歌い上げるゴスペルと、滝を登らんとする鮭の上昇。
亀鳴くや書店に並ぶ幸福論
エンデの作品には亀がよく登場するといわれている。「モモ」のカシオペイアもまた、自分の「時間」を持った、神に近い存在の亀だ。自分の時間を売り渡すことなく、自分の歩みは自分で決める。
身近な題材を雑多に取り入れて詠んでいる。二物衝撃に面白いものがある。
拙い句群お読みいただき、コメントをいただき、どうもありがとうございました。少しずつでも勉強していければと思っています。ありがとうございました。
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