【週俳9月の俳句を読む】
火照った頭の中を
石橋芳山
秋暑しアンドロイドは夢さめて 茸地 寒
「秋暑し」から始まるこの句はいつ頃なのかなとの疑問。「夢さめて」で終わっているので多分、秋とはいえまだ暑くて寝苦しい夜に目が覚めてしまったのだろう。それでは「秋暑し」であるが、二十四節気から見ると、立秋は8月7日~8日暦の上では秋になるが、現実は一番暑い時期である。こう少し後ではないのか、では処暑のころ8月23日~24日頃では。この頃になると毎夜ではなくてたまに寝苦しい夜があるように思います。
句の中のアンドロイドは、2種類考えられてそれぞれに句意を感じられてそれが面白いのである。
●SFなどに登場するロボットで人間そっくりな人工生命体 。思考や行動なども人間同様の、アンドロイドの場合
暑かった夏も終わりを告げる処暑のころ、朝夕の気温に秋を感じていたのだが、今夜はどうしたことかやけに暑くて寝苦しい。この寝苦しさは人間だけでなく、人工生命体のアンドロイドであっても寝苦しさを感じて眠れないことだろう。アンドロイドを持ちだすことで、どれほど寝苦しいのかを感じ取られる。
●Googleによってスマートフォンやタブレットなどの携帯情報 端末を主なターゲットとして開発されたプラットフォームのアンドロイドの場合
人工生命体のアンドロイド同様に暑苦しさに目を覚ましたのは、人工生命体ではなく作者本人が目覚める。寝ようと努力するが、一度目が覚めるとなかなか眠れないそればかりか暑い。仕方なく枕元に置いてある、スマホのゲームアプリで眠れない夜を遊んでいる。
モヒートのグラスの底の初秋かなて 茸地 寒
まだ暑さの残る夜の繁華街に、会社の同僚と居酒屋での飲み会である。その会も終わってみんなとも分かれ、話したらない仲間2人~3人が騒ぎ疲れて、静かなスナックのカウンターでモヒートをオーダーする。モヒートはラムをベースとした冷たいカクテルで、火照った体を冷やすにはちょうどいい。ソーダ水とミントの葉がほろ酔いの頭に、心地良い刺激を与えてくれる。グラスの底の冷たくて爽やかなモヒートは、火照った頭の中を吹き抜けていった秋そのものであった。
スナックに秋鯖提げて来るをとこ 望月とし江
漁師町にあるスナックであろうか、豪快であるが心根はやさしいスナックの常連の漁師が、ママにぜひ食べさせようと秋サバを持って意気揚々とやってくる。昭和30年代ごろの高倉健の映画にでもありそうな場面が浮かぶ。
「秋ナスは嫁に食わすな」と同様に「秋サバは嫁に食わすな」と言われていたころがあったようだ。
秋鯖は脂がたっぷりのって肉の味もよくなる。青魚の脂は善玉コレステロールを増やして悪玉コレステロールを減らすとか言われている。そして大衆魚の鯖は高級魚のマグロ・鯛と違い大衆の口に入りやすい。それでも昔は、庶民は貧乏なのと嫁いびりなのかも知れないが、鯖は腐りやすくて古くなるとジンマシンを起こすから、「嫁に食わすな」なんてことが言われていたようだ。
このスナックに持ってきた秋鯖は、どのように料理されたのだろう。卑しいと言われそうだが、どうしても気なるところである。やはり焼き鯖が一番だと思う。鯖を串刺しにして炭火でトロトロと焼く、脂がポトポトと落ちていい匂いがしてくる。
「秋鯖の刺身にあたると薬がない」秋の鯖の中毒は激しいらしいし「鯖の生きぐされ」ということばもあるほど腐るのが早い。しかしながら秋鯖の刺身は最高に美味いのである。
秋の橋渡りをはりて夜となる 秦 鈴絵
7月の日の出から日の入りまでの時間は、おおよそ5:00から19:30の14時間半余りと長いものである。これが秋の9月中旬にあると、6:00から18:00で12時間と、夏と比較すると約2時間半日が出ている時間が短くなる。自然の風景を見たり気温を肌で感じても、秋を知るのは当然の事ではあるが、日が出ている時間を日常の中で知ることで、秋を感じることも多々ある。いままでゆっくりと時間を使っていたが、日が短くなり今までと同じ道のりを歩いても、辺りはすでに暗くなっている様を、秋の橋と入っていくところが気に入っている。
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