2017-05-28

俳句の自然 子規への遡行 57 橋本直

俳句の自然 子規への遡行 57

橋本 直
初出『若竹』2015年10月号 (一部改変がある)

前回までの「ぬ」に引き続き、俳句分類丙号における「切」について検討する。次項は「かな」である。子規は「かな」を分類するのにあたり、切れの位置に注目し、上五末の「かな」切れに焦点化して、それを春(九句)夏(八句)秋(八句)冬(十一句)で分けている。

  乞食哉天地を着たる夏衣  其角
  浮世哉月にはまふた芋に砂  杉風
  枯野哉雪くれて寝て見ん不二の味  言水 
  枝も哉嵐の木葉霜の花  宗砌

現在、一般的には上五を「哉」で切るのは嫌われる作句法であり、初心者には例外的なものと説明されているように思われる。これは切れ字の上が三音に固定されやや窮屈であることと、「哉」が座五で使われることが多いゆえに相対的に読者に違和感をもたれたり、倒置のように読まれやすくなったりして、結果切れの前後の飛躍が判じ物のように理屈でつながってしまうためかと思う。子規の分類においても収集数は四十句に満たないから、近世においても多くは詠まれなかったのかもしれない。それでも、引用したように、其角、杉風言水ら近世を代表する作家達が詠んでいる。また、最後にあげた宗砌(そうぜい)は室町中期の連歌師であり宗祇の師である。子規が集めた中で最も古い時代の句群の一つということになるだろう。先に述べたように、上五の切れに「哉」を用いることは現在あまり行われないゆえに、顧みられることが少ないのであるが、子規の分類によって歴史的にはかなり古い段階から継続実践されていたことが確認できる。

次に、中七の「かな」切が分類されている。中七の分類は、さらに数が少ないこともあって春夏秋冬には分けられていないが、中七にはあるが座五に哉を用いてないもの(子規の用語では「除句尾ニアル者」)と連体接続ではないもの(子規の用語では「除名詞ヨリツヾク者」)のまとまりと、単に中七中にあるもの(二句切れ、中間切れ)の二つに分類されている。とはいえ、こう書いてもいささかわかりにくいものなので補足説明をしておく。まず前者の分類では、

  道はこゝにとゝまれる哉神神楽  宗因

のように、中七の切れの「哉」が活用語や付属語に付いている句を分類してあり、後者では連体接続のものが分類してある。ゆえに、前者には「除名詞ヨリツヾク者」と断り書きがつく。

次に、後者では、

  若草にはや浮世かな末の露  昌察
  梅柳さそ若衆哉女哉  はせを 

これらように、中七の切れ字の「哉」(一句目)と、中七の切れでもあるが、並立表現になっていて下五でも切れになる場合(二句目)を併せて分類してある。ゆえに前者の分類に、「除句尾ニアル者」と断りが付けられているのである。

また、前者の分類の中には、

  夏木立哉池上の破風五寸  其角
  梅に月枕もがなの数ならず  東水

このような句も分類されているのであるが、前者は「夏木立哉」という上五の破調であろう。また、後者は「かな」ではなく「もがな」と思われ、いずれも子規の勘違いではないだろうか。この他、座五の「かな」切れのみの分類はない。それが、子規がその必要を感じなかったからなのか、多すぎて後回しにしたままになったものなのかは未詳である。

ところで、さきほど見たように、子規は下位分類をする場合、時折、連体接続か否かのように品詞の接続で分けようとする。それが数を分ける場合に都合がよかったからなのか、それ以上になにかの分類の方法概念が導入されていたのかはまだはっきりしないが、特徴的な態度ではあるので、なお注目していきたいと思う。

つぎは「よ切」である。句末の「よ」は、命令や呼びかけなどの「主体の意志・感情・判断・意見などを強く相手に押しつけようとする気持ちを表わす」(「新明解国語辞典」)語であるが、子規はこれを意味(①「命令話シカケ」)と接続(②「名詞」、③「形容詞」、④「除名詞形容詞」)の四通りに分類している。

  ①若楓矢数の篝もみちせよ  蕪村
  ②這ふ子にも土は薬よ瓜の蔓  素外
  ③くふて寝る身の不性さよ波の鴨  野坡
  ④衣打つよ田舎の果の小傾城  几董

このように、「ぬ」や「哉」と違って、切れの位置による分類を行っていない。当然「よ」も上五中七下五それぞれの末に使われているのだが、先の二語と違って、そこで分ける必要を感じていなかったということなのだろうか。

一方、続いて分類されている「ぞ切」はまた位置の分類に戻っている。基本、上五、中七、下五の句末にあるもので分類され、中七のみ名詞とそれ以外の接続にさらに分けられている。なお、

  口もとにある名そあれは草の花  踏青
  何急く家そ灯ともす秋の暮  几董

この二句のみ「切字」と書かれて別に分類されているが、見る限りはいわゆる中七の中間切れであり、やはり位置の意識で分類されていると思われる。

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