2018-11-18

【週俳10月の俳句を読む】いい記憶 鴇田智哉

【週俳10月の俳句を読む】
いい記憶

鴇田智哉


虫時雨この横顔で会いに行く  なつはづき

この、と言っているから、割とくっきりと見えているのだろう。
自分が切り絵の中の人物になったかのような。
あるいは影絵劇の配役になったかのような。
会いに行く、ということを、物語めいて感じ始めているのか。
虫の声の響きの中にあって自分は、くっきりとして、進んでいく。

◆

明洞てふカラオケ喫茶ゑのこ草  市川綿帽子

遊廓の跡にたばこ屋小鳥来る  同

ここはどこで、いつなのか、という思いは、
秋の日がざらついた壁にはりついたようなときにも、
起こるのではないだろうか。昼の狗尾草がわびしい。
影を追いながら、別の場所にいる気になったり、
小鳥に気づいて、ふと我に返ったり。

◆

稲の穂の擦れあふ音のかすかなる  今井豊

稲は、その花もそうだが、どことなくかそけきものである。
黄金色まぶしく、大きくひろがっている稔りの田であるが、
その中にあって、ひっそりと擦れ合っている稲穂は、
あたたかく、懐かしい。

◆

蓑虫にひびいてきたるハーモニカ  中岡毅雄

蓑虫にある、かすれ感、は
ハーモニカの響きに通じるところがあるかもしれない。
ひびいてきたる、とは、頭の中で響いてきた、ということではないか。
銀色と、ひんやりとした手触りのなつかしさもまた、
蓑虫の重なったのではないだろうか。

◆

記憶とは松茸ほどに匂ふもの  馬場龍吉

松茸ほどに匂ふ、と言われても、どのくらいなのか、
よくわからないけれど。ともかく
いい感じで匂う、ということなのだろう。
この、記憶、はいいものでないといけない。


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■市川綿帽子 横浜 10句 ≫読む
■今井 豊 いぶかしき秋 10句 ≫読む
■中岡毅雄 底 紅 10句 ≫読む
ウラハイ ■ 馬場龍吉 豊の秋 ≫読む

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