【週俳1月2月の俳句を読む】
やっぱりキュート
加藤綾那
くまあなにこもるP.S.アイ・ラブ・ユー 山本真也
「くまあなにこもる」と全てひらがなに開くことで生まれるつたなさがキュートな句。冬眠に入る前の熊が覚えたての言葉で手紙を書いたのかもしれない。そうだとしたら手紙の最後に「P.S. アイ・ラブ・ユー」と付けるあたり、賢くてロマンチックな熊だ。やっぱりキュート。
初富士を駆け下りてくるリンゴかな 同
たぶん登山している誰かが持っていた「リンゴ」を落としたのだろう。山をころころとリンゴが落ちていく様子は少し間抜けだけれど、「初富士」に真っ赤なリンゴの組み合わせは悪くなくて、もしかしたらおめでたい組み合わせのような気もしてくる。「初富士で丸いもの(円形)を拾うと、その一年良いご縁に恵まれる」みたいな・・・?
ロケットの落ちてきさうな冬野かな 細村星一郎
「冬野」はどちらかというとさみしい季語のはずなのに、この句の中の「冬野」にはわくわくしてしまう。だだっ広くて何もない野原。空には雲の数も少なくて、あたりもしんと静まり返っている。そんな景色の中で「ロケット」に墜落を想像(期待)してしまう作者の純粋な心を羨ましく思った。
この句の場面を夜と想定して読んでも美しい。冬の夜空は濃くて深い。夜が野原を飲み込んで、まるでその場全体が宇宙のような雰囲気になってしまう気がする。冬の空気の冷たさは、「ロケット」の機体に触れた時のしんとした冷たさに似ている気もする(ロケットに触ったことはありませんが)。冬と宇宙の親和性の高さを巧く使いこなしている句。
故郷がスキーのリフトより見ゆる 同
実感の伝わる句。スキー場から見える位置に私の故郷はないので、こういう「故郷」をもつ境遇に憧れる。事実を伝えているだけなのに、何故だか素敵に感じてしまうのは、私が冬が好きで雪が好きだからだろうか。自分の町に雪が降るのも嬉しいけど、雪山から自分の町がみえることもきっと嬉しく感じるのだろうな。
首筋の終はりセーター卵色 田口茉於
まず「首筋」に終わりがあるという発見に対する感心。人体という、最も身近なものに発見ができるのは強い。きっと何百年先も人体の構造はそれほど変わることはないだろうから、何百年先も共感できる。
「首筋」という言葉はなんとなくどきっとさせられる言葉で、「終はり」もなんだかせつない言葉。だけど、その終着点にある「卵色のセーター」はふわふわで、温かみがあって、明るさのある言葉だ。そこにしあわせがある気がする。冬の陽だまりの中で恋人に向けられた視線を感じる。
千の靴行き交う春の夕焼に 同
「春の夕焼け」という黄昏時に行き交う千の人々のその姿は少しぼんやしている。その中で「靴」音だけがはっきりと聞こえてくるような光景を思った。一日の終わりで疲れきっててはいるのだけれど、明日への希望を持ってしっかりと生きている。そんあ音が聞こえてくる俳句。「千(セン)」という数字のきりりとした音も効いている気がする。
蟇出でよ閉じては開くブラウザー 前田凪子
「ブラウザー」を隠したり出したりするときの動きは軽快で、確かにカエルの跳ねる姿に似ているかもしれない。「蟇出でよ」の魔物を償還するみたいな言い方も面白い。
アスパラガス並べちゃんとした人になる 同
「アスパラガス」を並べたからって「ちゃんとした人になる」わけでは決してない。だけどその的外れな見解は無邪気で可愛い感じがする。だから、「アスパラガス」はまっすぐピンと伸びているし、背筋のきれいな人って感じだね、とつい共感してあげたくなる。
第665号 2019年1月19日
■山本真也
マジカル・ミステリー・ジャパン・ツアー 10句 ≫読む
2020-03-22
【週俳1月2月の俳句を読む】 やっぱりキュート 加藤綾那
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿