【澤田和弥の一句】
短夜のチェコの童話に斧ひとつ
秋谷美春
短夜のチェコの童話に斧ひとつ 澤田和弥
澤田和弥氏に強い影響を与えた寺山修司の詩の世界を感じさせる一句である。寺山修司の俳句や短歌、演劇に象徴的に登場する斧は、津軽地方一帯に向けて振り上げられた下北半島であり、その切先は老木の脳天や向日葵、姉といった存在へと振り下ろされる。
人類にとって馴染みの深い道具である斧は、物語の世界においてもしばしば場面転換を促す道具として登場する。掲句のうちで氏が繙いていたチェコの童話がいかなるものであったかは分からないが、短い夏の夜、氏が書物のうちに発見した一本の斧は、夜すなわち死の世界に属する斧を想像させる。それは昼間の森で振るわれる木樵の斧ではなく、赤い靴の少女カーレンの両足を切り落とした首切り役人の斧のような、物語に犠牲と秩序とをもたらすものであったに違いない。
詩として再構成するのための言葉の解体という意味において、詩人は誰しも一振りの斧を携えている、とも言えるかもしれない。「短夜」という、どこか濃密であり儚くもある時空に対し、詩人としての澤田和弥氏が斧を振り下ろす刹那、チェコの童話世界と寺山修司の詩の世界とが交差する。
0 件のコメント:
コメントを投稿