【週俳3月~8月の俳句を読む】
一句を一貫する濃さ
小野裕三
木蓮の花弁崩れて夜のふけぬ 髙木小都
木蓮はダイナミックな印象の花です。はらはら儚く散るというよりは、落ちる、降る、という感じの最後になる花なので、「花弁崩れて」という濃い言い回しが言い得てます。その取り合わせとして、深まる夜が配されてますか、木蓮はなんだかひとけのない深夜が似合う気が個人的には確かにします。一句を一貫する濃さがちゃんと機能してますね。
いつまでも咎めるごとく夏の月 小田島渚
そうですか。夏の月は、けっこう根にもつタイプなんですかね。今までそんなことを意識したことはなかったですが、確かに夏の月は、そんな性格かも知れません。あるいは、月以外の何かがそんな状態なのかも、ですが、ともあれなんだか納得するのはいい句である証拠ですね。「咎める」というちょっと硬い言い方がうまくはまっていると思います。
みつ豆の還俗したやうな野望 土井探花
みつ豆の句は、だいたい俗な感じの句になり、崇高な感じにはなりにくいです。そんなみつ豆の性質を踏まえつつ、「還俗」「野望」という重たい言葉を連続でぶつけてきました。還俗と言われても、みつ豆ですから、崇高な世界をこれまで実は生きてきたとも思えません。なので、末尾の野望という言葉が効きます。ちょっとした仕掛けめいて洒落てます。
夏鷗飛ぶばかり防潮堤高し 広渡敬雄
三陸海岸ということなのでいろいろな経緯や背景を思わせる句ですが、いったんは実景のみの句として解釈することにします。すると、二つの物がそれぞれに高さを持っていて、それがうまく響きあうのです。防潮堤の高さもあたかも町や岸の世俗を遮るように働いて、だから海や空の青さ、波や雲や鴎の白さ、がコントラストとして際立つのです。
寝たふりのよく聴く耳よマスカット 野名紅里
もちろんこの句は前半が面白いわけで、寝たふりして聴き耳立ててるなんて、ある意味でちょっとかわいい感じもして、横になった背中の丸まり具合なんかも想像されます。が、この句、意外にマスカットがいいんですね。最初は、え?マスカット?と思ったのですが、よく読んでると、マスカットの色艶香りなどがうまく効いてきて、いい按配です。
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