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敬虔の乳 竹岡一郎
乳粥の零れより起つ雪女帯解の子へ勾り橋捩れ橋
帰り花滅びの歌をはつか羞ぢ
虎落笛たふとき魄に碧き塞
世は蠱毒甕を覆へる室の花
皸の指が緻密な罠描く
逆恩を受けし汝こそ小春の咒
耳鳴りに血と眼が睦む雪の鹹
白炭と化す銃身に月測る
城址轟く猟夫と狒狒の受け答へ
十二月八日躱せば血が終る
沈む柱は海溝を統ぶ鮫の嗚咽
饒舌に着ぶくれ逆恩愧ぢぬ彼奴
閘門や色なす鬼火敢へて堰く
毛皮から血の粒除く簸るやうに
耳塚聴けり鼻塚嗅げり餅搗を
牛告げし事変をずらす世継榾
凍つる分岐器へと注ぐ指の雨
誰何せよ澄める屍が氷湖割る
軋みけり魂ずれ著き傀儡師
熊裂けて梁のわが魔を降し得ず
逆恩を糺す鬼火の結晶化
すくひ放題やつめうなぎへねぶりの血
息白し人死の毎かはる番地
鐘氷る巨眼の化石あざらけし
鬼の読経はいつのまに寒茜色
咳きや轆轤の律にまつろはず
鷹鳴くが殯の鏡もゆる証
雪女眼窩の棘へ緋の息吹
獄門の跡地が舞台漫才冴ゆ
眉引くに閨の余韻を夕霧忌
骨の手の忽と銭置く夜鷹蕎麦
生殖や小禽に似て病む鬼火
雪兎月は和毛を与へたし
鎌鼬跋扈の痕も顔彩る
焼くや縊るや狐火嚙んで髪しごき
「あたしの羽」虚空の冴えをしふねく撫で
雪の胚はらむ天命うつろ貝
除雪車を積み白炎の座礁船
崖たり囚徒たり凍鶴が星かくまふ
磐に啓くが狼の智慧と声
敬虔の乳噴く天を雪女
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