2024-01-14

ひろびろと青空 南十二国句集『日々未来』 西原天気【句集を読む】

【句集を読む】
ひろびろと青空
南十二国句集『日々未来

西原天気


日の昇るまへの青空初氷  南十二国(以下同)

句集冒頭の美しい一句。太陽は顔を出す直前に空に青みをもたらします。それを「青空」と言い切ることで、景が大きく広がります。さらに「初氷」を対照させて、地上にも陽光が及ぶ。

季節の時間・瞬間を、大きく美しく垂直に構図させた句はほかにもあります。

水底の小石に朝日鳥の恋

雲割れておほきなひかり浮寝鳥

景を描くにのびやかな、見えるものへの愛おしさのあふれる句集です。

野が空を見上ぐる秋となりにけり

町並をのせたる大地春を待つ

米どころいちめん水や鯉のぼり


読んでいてふと気づくのですが、人事の句、つまり人間関係を詠んだ句が少ない。句集によって、作家によってはとても多い、他人とのやりとりが、ほとんど出てこない。この傾向は、『日々未来』の前半ほど著しく、後半に行くにつれ、しだいに増えていく。このあたりは、編年で句が並ぶ句集の楽しみ方のひとつ。

ただし、ひとりの人とのこれ以上になく近しい距離の句が、集中、離れた箇所に二句あって、

ねむるとき手に手が触れぬ星祭

鼻息のふれあふねむり春めける

この二句が、他人の登場が少ない句集だけに、なんだかせつなく愛くるしい。


のびやかで、ところどころちょっとせつない『日々未来』、全篇、気持ちよく読ませていただきました。


南十二国句集『日々未来』2023年9月/ふらんす堂

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