【句集を読む】
ひろびろと青空
南十二国句集『日々未来』
西原天気
日の昇るまへの青空初氷 南十二国(以下同)
句集冒頭の美しい一句。太陽は顔を出す直前に空に青みをもたらします。それを「青空」と言い切ることで、景が大きく広がります。さらに「初氷」を対照させて、地上にも陽光が及ぶ。
季節の時間・瞬間を、大きく美しく垂直に構図させた句はほかにもあります。
水底の小石に朝日鳥の恋
雲割れておほきなひかり浮寝鳥
景を描くにのびやかな、見えるものへの愛おしさのあふれる句集です。
野が空を見上ぐる秋となりにけり
町並をのせたる大地春を待つ
米どころいちめん水や鯉のぼり
●
読んでいてふと気づくのですが、人事の句、つまり人間関係を詠んだ句が少ない。句集によって、作家によってはとても多い、他人とのやりとりが、ほとんど出てこない。この傾向は、『日々未来』の前半ほど著しく、後半に行くにつれ、しだいに増えていく。このあたりは、編年で句が並ぶ句集の楽しみ方のひとつ。
ただし、ひとりの人とのこれ以上になく近しい距離の句が、集中、離れた箇所に二句あって、
ねむるとき手に手が触れぬ星祭
鼻息のふれあふねむり春めける
この二句が、他人の登場が少ない句集だけに、なんだかせつなく愛くるしい。
●
のびやかで、ところどころちょっとせつない『日々未来』、全篇、気持ちよく読ませていただきました。
南十二国句集『日々未来』2023年9月/ふらんす堂
0 件のコメント:
コメントを投稿