花布 千倉由穂
太陽の傍にしゃがんで蕗の薹
寝転べば胸の底から揚雲雀
春夕焼草の匂いを持ち帰る
灯るから暮れてゆくなり草朧
春雪に塞がれライブハウスの扉
いぬふぐりいまだ定住者にあらず
ペンギンに水面の影ができ遅日
花屑の水に触れてはほどけゆく
ヘッドホン首に重たくして海市
曲がる時また振り返る春日傘
菜飯食うまとめて捨ててきた故郷
滲み出す眠気に触れてヒヤシンス
青蛙昔話を抜け出せり
集落の終わりに虹の懸かりけり
サンダルに砂の重さがまだ残る
小箱開ければ風鈴舌に包まれて
展翅される夏蝶ここが永住地
指広げ蜥蜴になってゆく途中
噴水や何も見ていぬ眼の光
青葉風カーブミラーに影忘れ
身体に宿る記憶として青葉
ががんぼには祖母の余命がわかるのか
夕立や向かいのビルは人まばら
中華屋にビル影伸びてきて夕焼
コンビニの冷気素足に抜けてゆく
袖口よりほつれて烏瓜となる
内側に祖父の戦後や夏簾
夏座敷四肢の遠くに頭がありぬ
端居して花布眺めたることも
寂しさのかぎり首振る扇風機
扇風機またも夕刊膨らませ
おはじきの色を映せり天の川
稲妻も沈めて風呂に入るなり
秋蟬や暗き廊下のひとところ
竈馬母の怒声の端におり
蜻蛉は還らなかった遺失物
秋風や馬頭観音並び立つ
鯖雲の傾くばかり偏頭痛
銀の匙一つ一つの秋の色
秋雨や京の住所の長きこと
大花野いまだ眠たき脛を打ち
流星やリュックサックを枕にし
どの窓も金木犀を招き入れ
雪催まばたく毎に過去となる
冬ぬくしラー油の玉の繋がりて
コロッケの冷めゆく重さ細雪
風花や門灯明滅して灯る
寒晴に戻る証明写真機より
自らの声啄んで寒雀
実千両友の無口の親しかり
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