2026-10-11

〔著者に訊く〕谷雄介句集『ニュース』

〔著者に訊く〕
谷雄介句集『ニュース』

聞き手:西原天気

Q 句集『ニュース』のことを訊くまえに、ご自身の俳句キャリアについて、簡単に教えてください。私が初めてお会いしたとき、谷雄介さんは大学生でした、あれからずいぶん時間が経ちました。「まだ、俳句やってたんだ」というのが句集のことを聞いたときの感想です。失礼に聞こえるかもしれませんが、うれしかったってことです。

雄介●
そう言っていただけるとうれしいです。

俳句キャリアを振り返ると、大学時代には、既存の学生サークルである早稲田大学俳句研究会と、それに対抗する新組織としての「ワセハイ」。あとは、上田信治さん、佐藤文香さんと結成した俳句ユニット「ハイクマシーン」。俳句未経験者を巻き込んでダム吟行したり野球したり、俳句らしからぬチャレンジに邁進した「トーキョーハイクライターズクラブ(THC)」など、よく言えば精力的に、悪く言うと飽きっぽく過ごしていたような覚えがあります。

社会人になってからは忙しさにかまけて俳句とは離れがちになりましたが、櫂未知子さんに同人誌「群青」創刊にあたってお声がけいただいたことで、薄く俳句との繋がりは保っていました(とは言え、しょっちゅう欠詠している幽霊同人)。
一時期仕事の関係で5年ほど広島にいまして、東京に戻ってきた時期に「群青」の編集に携わるようになり、その流れで「名ばかり編集長」となり今に至ります。

Q 句集を出そうと思い立ったきっかけは?

雄介●
昨年の文学フリマ東京41にあたって、櫂未知子さんの個人誌「櫂」を制作したことです。

以前に大穂汽水さん(学生時代の俳句友達)が個人経営の出版社(暁光堂)を起業したことは聞いており、よく分からない印刷所や出版社に頼むよりも、せっかくなら大穂さんにお願いしたいと思い、暁光堂さんに制作を依頼。

その際、暁光堂さんでは自費出版でAmazonのオンデマンド印刷の仕組みを活用していることを知り、デジタルっぽくもあり、アナログでもある、面白い出版方法だなと関心を持ちました。

Q 句集を準備するとき、意識した句集はありますか? 同年代の俳人のでも、年嵩の俳人でも、物故でも。

雄介●
藤井あかりさんの『メゾティント』と岩田奎さんの『敵』です。

藤井さんの句集はふらんす堂から出ていますが、簡素なペーパーバック仕様。岩田さんの句集も簡素な作りで、自分も句集を作るならこういう句集のトーンがいいなと直感的に感じていました。

Q 句集制作で、迷ったこと、悩んだこと、困ったことはありましたか?

雄介●
そこまで気張らずに句集を作っているので、迷ったり、悩んだりということはあまりないですが、敢えて言うなら「Amazonのオンデマンドプリントの仕様の中で、どれだけ普通の書籍っぽくできるか」という点にはこだわりました。

たとえば、Amazonだと、本の裏表紙の2列バーコードがどうしても1列(ISBNコードのみ)になってしまうのですが、それをどうやって普通の書籍を同じ2列にするか、とか、流通や取次のコネクションがない中で、どうやって本屋に置けるようにするか、とか。

Q 『ニュース』という句集名はとてもいいと思いました。インパクトがありますが、俳句の枠外に持っていけば、ごくごくふつうの名詞。書名として、適度の衒いがある。これを思いついたのは? 経緯などがあれば。

雄介●
きっかけは、職場でたまたま「ニュース」関係の仕事に携わったことでした。

ニュースという文字をよく見ると、何か見覚えや親しみがあるなと思いまして…。どういうことかと言うと、私の俳号であり本名の「たにゆうすけ」の中に「にゆうす」が含まれているんです!笑

僕自身は「谷」という苗字があまり好きではなくて(2文字苗字への叶わぬ憧れ)、「攝津幸彦」とかと比べると、いかにも主人公感のない、モブキャラ的な名前だなと思いながら40年生きてきたのですが、なんだ、名前の中に「ニュース」が入ってるじゃん!と嬉しくなり、この句集名に決めたのは、実はそういう経緯でした。

その上で、天気さんのおっしゃるとおり絶対に句集名にならなそうな言葉であるということと、自分の句集を「ニュース!」と言って世に放つ馬鹿馬鹿しさと、その他いろいろな理由もあって、この書名にしています。

Q おお! た・にゆうす・け。感動しています。ところで、句集編纂は、選句を含め、愉しむ人とそうでない人(億劫がる人)がいるように思います。どちらですか? その嗜好に理由があればお聞かせください。

雄介●
どちらかというと億劫でした。

基本的にはめんどくさがりで、誰かやってくれないかなと思いつつ、当然ながら自分しかやる人間はいないので、ある週末に一気に終わらせた覚えがあります。

また、自分の実力値はそれなりに分かっているつもりでいるので、「立派な句集を作るぞ!」と基準を引き上げれば一句も選べる句がなくなる。「俳句の中身よりも愛嬌で勝負!」と自分を励ましながらなんとか作品を揃えました。

Q 「谷雄介」という名、そしてその句作を知らない人がいるとします。どのようにこの句集をアピール/宣伝しますか? 言い換えれば、読んでもらうのに、どのように口説き落としますか?

雄介●
Xで実施した「先着100名様謹呈企画」に現れているとおり、「興味のある人は、買わなくてもいいので謹呈させてください!」というアプローチになるかと思います。

これもXに書きましたが、「興味のない人の句集はタダでもいらない」ので、ほんの少しでも興味を持っていただく方がいるならば、句集を手に入れるハードルを限界まで下げることに努めたいなと。

僕自身、そもそも「一方的に句集を謹呈することは著者側のエゴ」だと思っています。なので、興味の湧かない方を口説き落としたり、説得するのはあまりよくないことではないかと。あくまで興味の持っていただけそうな方にとって手に入れやすい状態を作ることが大事。

もう少し極端な言い方をすると「句集を作ることは俳人の自己顕示欲に起因しており、紙のムダ、資源のムダ」とも思っているので、必要な分だけ製造するオンデマンド印刷はそういう意味でも肌感には合っていたのかなと思います。

Q 知らない/興味のなかった俳人だけど、読んでみたらおもしろかった、という一種の僥倖を狙うのは? という意味の質問でしたが、「紙のムダ」という至言が出ましたので、そこは広げないでおきましょう。そこでなのですが、それなら、紙を使わない、例えば電子データでの出版は検討されなかったのですか?

雄介●
あ、そこまで地球環境を真剣には気にしてないです!笑

ちなみに、Amazonのオンデマンド印刷サービスだと同時にkindleで出版できます。

電子書籍の普及率の観点で、それ以外の電子書籍プラットフォームまではカバーしなくてよいと考えたのと、Amazonをポチっていただければ翌日か、翌々日には届くので、余程の電子書籍好き(ミニマリスト?)でない限り、不便はないかなと。

あと、ペーパーバックの簡易な体裁ではありますが、これはこれで物としての味わいがあるんですよね。表紙のPP貼り加工は安っぽくて句集のスタンスともあってますし、中頁にもちょっとした仕掛けがあり、それも含めて実物で楽しんでいただけたらと思っています。

Q 最後に、あまり感じのいい質問ではありません、邪悪な質問です。「田中裕明賞」には応募しますか? 答えたくなければ「ノーコメント」で結構です。

雄介●
いや、全然感じの悪い質問じゃないですよ! もしかして天気さん、俳句世間に馴染んで丸くなられてますか??(心配)

Q もともと穏健ですよ。賞そのものについて、きほん茶番、というアタマが、個人的にはあるので、気を回してしまったんです。

雄介●
結論、田中裕明賞は応募します。俳人協会員でもあるので、俳人協会新人賞にも応募します。

気楽に句集作ってますので、腕をぐるぐる回して「受賞するぞ!」というノリではないですが、言うまでもなく応募することに意味があるのと、賞を取らなくても応募作は完全無視できないという意味で、どちらの賞への応募にも意味はあるかなと。

大学時代にわちゃわちゃやってた大学時代から二十年ほど経つのですが、あまり俳句業界の権威主義は変わってなくて、名の知れてる人たちも僕の感覚ではあまり面白く感じられなくて(なんかすごく細かいところをこねくり回してる感じ)、俳句業界の中でしか通用しない内向きの言語で成り立っているように見えています。

そんな中で多少なりとも賞のラインアップにバリエーションを出すという意味で、応募する意味はあるのかなと思っています。「ん? 変な応募作が混じってるぞ」と思われたい。

Q トリックスター的な存在? おおいに期待します。「変」はいいことです。

雄介●
もっと俳句の世界はフラットであるべきだし、この句集刊行を足がかりに、少し俳句に時間を使う(勝手ながらこの年になるとご恩返し)ようにしていきたいと思っています。

Q なんだか、「もっと俳句にコミットするぞ」宣言ですね。それはともかく、『ニュース』を手にし、ページをめくるのを楽しみにしています。最後に、なにかひとことありますか?

雄介●
近々、国立に遊びに行かせてください!

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谷雄介句集『ニュース』2026年9月24日/暁光堂

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