2007-05-06

モノの味方〔1〕 鉛筆

モノの味方 1  ……五十嵐秀彦

鉛筆
                             初出:『藍生』2006年9月号


鉛筆、である。いかにも唐突、無謀な書き出しで、いったいこれからどうなるのかわからない。

さて、今私の目の前にあるその鉛筆には尻の部分に歯型がついている。ときどき煙草代わりに銜えてみたりするからだ。鉛筆を噛むと、キシリと音がして、表面の塗料と木の味がする。この味との付き合いは長く、幼稚園児のころからか、もっと前からかもしれない。

幼児は何でもしゃぶる。口に入れることで、そのモノを理解しようとする。鉛筆という言葉も、その目的も、あとからついてくるものであって、まず何より口で感じ取ったものが鉛筆というモノの正体であった。

いい年をしていまだに鉛筆に歯型をつけてしまうのは、モノとしての鉛筆をまだ信じきれずにいるからだろうか。尖がすっかり丸くなった2Bの鉛筆がモノとしての正体をいまだ不明なままにして、なにごとかを私の心の中からひきずり出す。私の幼児の頃の、これが、骨ででもあるのかもしれない。


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