モノの味方 〔3〕 ……五十嵐秀彦
手帖
初出:『藍生』2006年11月号
二十歳の頃から日記を書くのが習慣で、もうかれこれ三十年になる。
日記と言っても私の場合は、小説や詩が好きだったので創作メモや読書記録が主であった。その習慣は今も続いていて縦書きのB6の手帖を常時肌身離さず携行している。
一冊一六〇頁を月に二三冊書き潰す。書いていることは、俳句、手紙の下書き、評論やエッセイの創作メモ、本の購入記録、読書メモ、行動予定などなど。あらゆることを一冊の手帖に日付順に書き込んでいる。これを忘れて出かけると軽いパニックを起こす。どうやら精神安定剤になってしまったようだ。
効用としては、退屈ということがないこと。一人になると手帖を取り出し何か書く。何か書いていると時間を忘れる。逆に副作用としては、書くことが現実そのものであるような錯覚に陥り、何も書かなかった一日は、あたかも存在しなかった一日のようになってしまうこと。
部屋の隅に積み上げられた数百冊の手帖は、私という時間の残骸のようで、紙のくせになにやら鉄錆の匂いがするのだった。
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