モノの味方 〔5〕 ……五十嵐秀彦
蛇口
初出:『藍生』2007年1月号
今はカランと呼ぶのか、しかし、やはり蛇口であろう。いかに蛇口らしからぬ形状をしていても、それは蛇口である。
蛇の口である限り、蛇身というものがなくてはならぬ。昨今は全て覆い隠すを佳しとするのか、すっかり姿をあらわないようになったが、家の中にも壁の裏には水道管という蛇身が隠れている。それは地中にもぐり、私などの知らないところまでのたくっているのだろう。
双頭ならぬ夥しい頭を持つ蛇身、思えばメデューサの髪のようなものだ。水を腹一杯にためこんだ蛇が地下にとぐろを巻いている。その深い真闇から、ぬっと蛇口が頭を出す。
私の机上に古い真鍮の蛇口がひとつ置かれている。先日、松江を訪れた時に、その地の俳友にいただいたものである。はたしていつの時代のものか、手に握れば隠れてしまうほどの愛らしい蛇口である。この真鍮のオブジェは松江からはるばる空間を超えて私の机上に、にょっきりと浮上している。奇怪なことである。
白光の冬日に渇く蛇口かな 秀彦
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2007-06-24
モノの味方 〔5〕蛇口 五十嵐秀彦
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