2007-07-08

モノの味方 〔6〕鏡 五十嵐秀彦

モノの味方 〔6  ……五十嵐秀彦


初出:『藍生』2007年3月号


じっと自分の顔を見つめることがある。

男だって鏡を見る。毎朝、髭を剃る儀式から解放されぬうちは、いやでも不細工なご面相とつきあわねばならない。そしてこのごろ思うことは、自分で想像している我が顔と、なんだか違ってきてしまったということだ。

そこに居るのは別人、というわけではないが、自分自身と思い込んでいる顔の上に、しだいに見覚えのある別な顔が重なってくる。それは父の顔だ。私の口はこんなに「への字」ではなかったと思ったとき、それが父の顔の特徴であることに気づくのである。私と父が鏡の中に居る。それはこの世の光景であろうか。そんなことを言うと、まだ健在の父に失礼かもしれないが、何かの準備が、私の顔の上にあらわれているようにも思える。いずれが現し世であるか、と思えばそれが仮の世との木霊が聴こえてくる。

じっと鏡を見つめる。現実はいずれか分からぬ。「おい」と思わず声を掛けた。

すると、鏡の向うに影がよぎった。



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