モノの味方 〔7〕 ……五十嵐秀彦
自転車
初出:『藍生』2007年4月号
「チリリンチリリンとやって来るは自転車乗りの時間貸し……」
高田渡の歌「自転車にのって」のイントロの口上「ハイカラ節」である。歌の中で主人公の少年は、自転車に乗って原っぱに野球に行ったり、いやなおつかいに行ったりする。ごく短い歌で、少年の汗の匂いと夏の風とを残して、それはすっと通り過ぎてゆく。
自転車に青空積んで寺山忌 秀彦
自転車には青空が良く似合う。心臓の鼓動のように走る自転車は、少年の速度そのものだ。前に観た中国映画『太陽の少年』でも、文革時代の北京を自転車で駆け抜ける少年の姿が印象的だった。青空の下が全て自分の世界だという少年の詩が自転車にはある。それは夢を生む機械でもあった。
今、駅前に無造作に放置されている自転車には、絶望の匂いしかない。自転車に青空を積んで走り去ってしまった時代のように、高田渡も突然にこの世を去ってしまった。チリリン、チリリンと音を残して。
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