2007-08-05

第1回 週刊俳句賞 互選:選と選評01-10

互選:選と選評01-10


01 久保山敦子

いつも「週刊俳句」、楽しませていただいております。内容が盛りだくさんで、なかなか消化できませんが、私の中でも、なにか変わりつつあるような気がしています。
今回の互選も、こんなに大変だとは思いませんでした。どうやって選をすればよいのか、総合誌の選考座談会や、近いところでは、「新鋭俳人競詠」を読む・・・などを参考に好きな句がいくつあるか、というところで選んでみました。だんぜんこれ!というのには出会えなかったので、三つの作品に点を振り分けました。

07 着衣 1点

次の風きて子燕のあたまかず
如雨露から捩れた水の出てきたり
見てをらぬときに噴水高くなり

08 夏痩 1点

夏の蝶自画像の目はひらいてゐる
停留所まで豆腐屋の打水は
奪ふもの多く残せる裸かな

35 シャツ汚す 1点

長いこと咲いてゐるなり時計草
四万六千日東京タワーにも寄りて
点すまでぶつきら棒な花火なり


【全体を通しての感想】
普段の結社の句会では主宰の選におまかせで、それに馴染んでしまっているので、頭が固くなっているかもしれません。ですから、今回の作品群は目をぱちくりさせるものもたくさんありました。いいのか悪いのかわからない・・・のも正直なところあります。ふと「俳句2.0」のことを思い出し、記事を読み返しました。

『俳人を取り巻く生態系、俳句が生産され評価され淘汰されていく生態系、それがネットを中心に少しずつ変化しようとしているのかも知れない今、そのことをあえて「俳句2.0」と呼んでみよう。』 

数多くの俳句が自由に生産され、公表されうる環境が整ってきたところで、「評価」は大切な要素であるわけですね。
このたびの選者にはそうそうたる先生方のお名前が並び、参加してよかったとつくづく思いました。
(点が入らずともめげずにがんばります)
編集の方々のお骨折りに、感謝いたします。

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02 浜尾きら

07 着衣 2点
好きだった句は
次の風きて子燕のあたまかず
常設展順路たつぷり緑さす
白南風の午後がはじまる畜産科
などです。

主婦として裸足ですごす午前中
この句は最初は、前半いいのに下五が勿体無いと思いましたが
読んでいくうちに午前中が効果的に思えてきました。

見てをらぬときに噴水高くなり
これはややあるかな・・と思いました。

10句全体で見て上手な作者だと思いました。
(言葉のやわらかさや、発見した事を詩的に詠む等)


27 射ぬく音 1点 
的射ぬく音のひとつや夏の朝
豆腐屋の二階より来る素足かな
はつなつの燈台までの半里かな
夏闇にぬつと小舟の漕ぎゆけり
夏の灯や医書はくろぐろしてをりぬ
黒潮の沖を流るる町の枇杷

など好きな句が多かったので頂きました。

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03 榊 倫代

31 水すこし 1点

夏の強い光の中、閃くように消える蝶の姿。雨蛙の落ちていく動き。沢蟹の棲む水の濁り。活けられた夏の華の強烈な色遣いなど。
鮮やかに視覚に訴えてくる句が多いです。
また「水すこし残して」「影留まれば」「羽伏せて」「枝の先」 等の細やかさに好感を覚えました。

07 着衣 1点

次の風、畜産科の午後の始まり、如雨露の水の捩れ、噴水の高さなど、一瞬を切り取るのが非常にうまいと思いました。
日常を平明に詠みながら、平凡にならない。作者の力量を感じます。

18 溺愛 1点
言葉の用い方や置き所に、ある種つき抜けている感じがあります。
塔を空へ沈めるという感覚。運河を向いた西瓜の切り口の鮮やかさ。
「油膜のごとく」「暇さうに」「単調な」等の喩や見立ての的確さを評価します。

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04 谷 雄介

08 夏痩 1点

ややテクニックに走っている嫌いはありながらも。

18 溺愛 1点

「溺愛や鋏に映る扇風機」という作品、あまりにお馬鹿で笑えます。「油絵を深きに飾り夏館」の「深き」なんていう斡旋にうーんと唸った次第。

32 ひるがお 1点

「ひるがおのなかなか閉じぬ忌日かな」「トマトに塩たっぷり振って追悼す」「匙に顔まるく映れる帰省かな」といった作品から、作者の確固たる定型感覚を感じました。「大喧嘩」「准教授」といった下五の展開には、あまり共感できず。


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05 藤幹子

02 白紙の願書 2点

テーマがしっかりしていて、一本筋が通っている安定感がある。ある家族の風景を切り取った物語のよう。構成といい、一句一句の立ち姿といい、秀逸と思う。

07 着衣 1点

手触りはさらっとしているが、映像を鮮やかに見せてくれる句が多い。飛び抜けて良い、と思わせる句はなくとも、この一〇句があつまると夏の断片的な風景が見える。

以下は、候補のなかでの個人的に好きな句です。


09 負け癖
夕立の手とか足とか持て余す
■夕立に振りこめられて、まさにもてあましている感じが良い。  

昼寝覚め左右で違う乳房かな
■この感じはけだるくて良いです。

15 ベタ

籐椅子の夫人は靴を脱がざりき
■エマニュエル夫人!避暑地の女王のような人。

20 更衣室

息ひそめとほりすぎたり花氷
■多分壊れないけれど、花氷の美しさを壊すまいとする感覚が良い。

小さきもの買ふためにある夜店かな
■和みます。郷愁を誘う。

30 おしゃれ

日盛りを包む表紙のやわらかさ
■何とも言えず好き。自分の一番好きな本を思い浮かべる。布装丁だろうな。

懐かしい漫画入道雲に似て
■この比喩は納得します。古い漫画のどうにも止まらないパワーとか。

おしゃれしてブッポウソウと鳴く娘
■ぎょっとさせるけれど、何だかおかしみがあって笑ってしまう。口をとんがらせてるのかな。

40 ぶん投げて
靴下を踏みつけてゐる裸足かな
■足の裏に感覚がきますね。あるあるある、という。

長虫の墓の真下に入りきる
■長虫の異様な長さや不気味さが感じ取れます。

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06 越智友亮

僕は「09 負け癖」に2点入れさせていただきます。
この作品には好きな句が多かったのと、粗い句が少なく、どれも平均的な作品に仕上がっていたからです。
例えば「はつなつのキャッチャーフライ高すぎて」「負け癖や糸瓜やたらとよく育つ」「夕立の手とか足とか持て余す」など。

次にいただいたのが「10 とろりとあかき」です。
好きな句は多かったのですが、若干粗さが目立ちました。「眉を足すだけの化粧や冷奴」とかがそれに当てはまると思います。

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07 岡田由季

09 負け癖 1点

はつなつのキャッチャーフライ高すぎて
笑い方おかしい人のなすび漬
夕立の手とか足とか持て余す

タイトルにぴったりの、ちょっと情けない、トホホなシチュエーションが次々出てきて笑ってしまいました。
「手前味噌並べて胡瓜ひと齧り」などはその意図が透きすぎる気もしましたが、全体として、嫌味なく、ひとつの気分を醸し出すのに成功していると思います。
タイトルも含め、自分の持ち味をよく理解している作者だと感じました。

29 長い街 1点

星合ひや木のてつぺんはまだ熱く
純愛やきゆうりは沈み茄子は浮き
白夜かも知れぬバンパー落ちてゐる

詩的な表現が並んでいるのですが、単にことばの美しさではなく、しっかりした手触りのある句が多いです。
「洗車まだ終へぬ半裸のひかる男」「土用波何してゐても爪がのび」などのユーモアにも好感を持ちました。

38 吊具  1点

煎茶のむ蝉の一つの鳴きをはる
どろどろになる夕焼の下のはう
手をかけて上を向かせる扇風機

派手さはありませんが、なるほど、と思わせる説得力があります。
観察が行き届いた10句だと思います。俳句でなければ表現にならないような、些細なところを上手に掬い取っていると感じました。


(全体を通して、好きな10句)

02 白紙の願書
 「白シャツに重き携帯電話かな」

03 成層圏
 「たちあふひ成層圏を吹く風よ」

08 夏痩
 「夏の蝶自画像の目はひらいてゐる」

09 負け癖
 「はつなつのキャッチャーフライ高すぎて」

10 とろりとあかき
 「聖五月しぼれば水の出る地球」

14 薄荷菓子
 「足の指ひろげて洗ふ日焼の子」

20 更衣室
 「息ひそめとほりすぎたり花氷」

23 白紙
 「風薫る白紙にうもれゆく二階」

35 シャツ汚す
 「ひきがえる中身は全て風であり」

38 吊具
 「煎茶のむ蝉の一つの鳴きをはる」

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08 佐藤文香

38 吊具 2点
それぞれの句にも10句の構成にも余裕があり、何でもない生活の一場面ながら好感を持てる作品でした。「校庭と校舎五月の雨降りをり」「煎茶のむ蝉の一つの鳴きをはる」「手をかけて上を向かせる扇風機」など、句の内側の空間を見せる絶妙のうでまえに、2点を投じたいと思います。

18 溺愛 1点 
言葉の示す物質に対する鋭い感覚に惹かれました。「油絵を深きに飾り夏館」の生む陰影、また「切り口を運河に向けて西瓜売る」に溢れる光線が、印象的でした。

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09 小林鮎美

18 溺愛 1点
タイトルに少しぎょっとしましたが、自分の感性を率直に詠ん
でいるのに新鮮で、そして濃密な世界観を持っていていいと思
いました。特に
「塔(あららぎ)を空へ沈めてゆく昼寝」
「単調な葉脈のある夏の旅」が好きです。

29 長い街 2点
「星合ひや木のてつぺんはまだ熱く」
「純愛やきゆうりは沈み茄子は浮き」
「雲が湧く兆しのやうなラクダの目」
「雷走る踏切のない長い街」
着眼点やモチーフがユニークで、一読してすぐに気に入ってし
まいました。

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10 坂石佳音

35 シャツ汚す 2点
読んでいる間いろいろな風が吹いたり止んだりしていた。
見回した通常の景色から数ミリ奥行きと巾もぶれさせて、新しい景の立ち上がる句に
思える。

05 青い椅子 1点
手放しに明るい・・・の反対側。
かなり好きな句と立ち止まって考えて、気になってといった句の交互にある感じ。




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