2007-08-05

第1回 週刊俳句賞 互選:選と選評11-20

互選:選と選評11-20



11 澤田和弥

27 射ぬく音 1点
いまだ自分の確固とした方向性は見出されていないように思いました。
ただ10句を通して、青春性がとても強く流れています。そこに惹かれました。

34 日焼けのなすび 1点
これが俳句なのかどうか少し迷うところはあります。
しかしこの対象との距離感はやはり俳句なのかもしれません。
その距離感に惹かれました。

39 素足 1点
正直申しまして、最初の9句は全くよいと思いません。
しかしトリの句がとても素晴らしいです。
疎外感、暗黒性、寂寥感、死との関係。
それら水、特にプールが持つ負の部分がうまく
表現されていると思います。
ただ作者はそういう意味で作られたかどうかは
分かりませんが、私はそう解しました。
それだけ多くの負を詠みながらあっさりとした
表現が素晴らしいです。
最初の9句をトリの句への序奏と解し、
トリを本丸と見ました。
まさに一点豪華主義の粋だと思います。
この構成は他の39作品には見られないものです。

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12 星 力馬

24 焼け残る 1点
鞄よりかばん出てくる雲の峰
あをぞらの真下に瓜の冷えてをり
蠍座の尾の焼け残る晩夏かな
の3句が秀逸。発想の面白さと素直な句つくり。

27 射ぬく音 1点
豆腐屋の二階より来る素足かな
ピアノソナタ降りくる夜の水母の死
の2句が特によい。全体に、自然体でありつつ新鮮な取り合わせを感じます。

30 おしゃれ 1点
手の平を蝕むマウス熱帯夜
この1句は全応募作品のなかで特選。
他の句にもう少し力があれば、と残念。しかし離れた材料を的確に季節感に収束させている。

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13 中村光声

14 薄荷菓子 3点
この作者の句は、その言語によって特徴的である。どの句からも若さが迸っている。対象の捉え方に一工夫がなされており、斬新さが窺える。昨今の時代を反映してか、乾いた言語と季語との噛み合わせが微妙であるが、季語によって俳句として存立しているとも云える。それらの言語を眺める方が作者の理解には早いといえるかもしれない。その特徴的な言語を句より拾う。

 炎天下の「物憂げな暑さ」を象徴化しているカレーの具の溶け具合。
 黙々と食べる息抜きのぜりーに「ミケランジェロの気概」を重ねるひと時。
 夕焼けをみて「昭和三〇年代の前向きな世情」をオート三輪の走りに想い浮かべる単純さ。

内容が言語に依存しているためか、噛み合わせを間違えるとつまらない句にもなりやすい危うさもみえる。

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14 金子 敦

02 白紙の願書・1点
  柔らかで繊細な感性で統一されており、よく纏まっている。
  願書を捨てるというのは、どんなに深い事情があったのかと心が痛む。

05 青い椅子・1点
  自由奔放な発想の新しさに、魅力を感じた。
  盆踊りの最中に鉄棒をしているのは、作者の自画像なのかもしれない。

13 故郷行・1点
  作者の心情が素直に綴られている点に、好感を覚えた。
  「生きたしと思う」はやや言いすぎだが、読者の共感を呼ぶ。

その他、点を入れたかった作品は
20「更衣室」、28「オイルタンクの空」、34「日焼けのなすび」、
35「シャツ汚す」、40「ぶん投げて」です。

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15 興梠 隆

35 シャツ汚す 2点

40作品の中では抜群に粒ぞろいの10句が揃っていると思います。
決して派手な道具立てを使っているわけではありませんが、それぞれの句に読み流させない仕掛けと工夫があります。
蟾蜍の中身が風であることの意外性、蛍と鉄路という異質な取り合わせ。
「長いこと咲いてゐるなり時計草」そう言われると、時計草が機械仕掛けか何か植物以外のものに思えてきます。
「夕涼み家族がそばにゐる街の」何気ない句ですが、誰にでもある、無意識にふと家族のことが脳裏をよぎる一瞬をとらえていて上手いなあと思います。
花火が「ぶつきら棒」という把握も面白い。
「青き果汁」「年中泥濘る道」も読み手の想像力を刺激してくれます。

20 更衣室 1点

全体に作者のかすかな息遣いが感じられて、とても惹かれました。
「小さきもの買ふためにある夜店かな」、「ためにある」という表現が好みではありませんが、着眼点がいいと思います。
「遠泳やあたまのなかで歌ふうた」もなるほどの一句。
「沿ふ川に夜店のあかり流れけり」の夜店の捉え方も類想がないのではないでしょうか、優しい句だと思います。
一転して「ロックフェスの大光源へ夕立かな」は、この10句の中では異色の大景。強い雨脚をあまなく照らし出す照明(と大音響)が印象的です。

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16 平川みどり

06 さびしいかたち 2点

全体的に新鮮な感覚が魅力的でした。箱になる、トイレットペーパーの芯、太陽はさびしいかたちなど、個性がきらりと光っていました。

07 着衣  1点

句にゆとりが感じられました。自信に溢れた生活に裏づけされたものは強いですね。

楽しく選句させていただきました。また、とてもよい刺激を受けることができました。自句の類想類句からの脱皮のチャンスにしたいと思っています。

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17 山下つばさ

18 溺愛   2点

背景の広さ、深さを感じられる作品。
1句1句に日常の驚きが込められていておもしろい。

溺愛や鋏に映る扇風機
パレードを終へし女体へ青時雨
切り口を運河に向けて西瓜売る
この3句、特にいい。

09 負け癖  1点

簡単な言葉選びが成功していて、センスのよさを感じる。
タイトルからして肩の力が抜けていて、この脱力感に惹かれる。

負け癖や糸瓜やたらとよく育つ
昼寝覚め左右で違う乳房かな

力が抜けているだけではないのがいい。

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18 中村安伸

29 長い街 3点

言葉によって、物語ではない何者かを生み出そうという意志を感じた。
内面に強い屈折を作りながら、表面はあくまでもすべらかな肌触りを保っている。

一句ごとに見てゆくと、たとえば

 星合ひや木のてつぺんはまだ熱く

という句においては、祈りに昇華される直前の欲望のようなものが、

 すべりひゆ母の気流の塩味の

においては、あらゆる官能を揺さぶる小さな竜巻のようなものが、存在していると言うことができるだろう。

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19 米男。

今回、四十篇の作品を一挙に読ませていただき
各々の作品に綺羅星の如く輝く句が何句かづつあり
わずか三点という手持ち得点の少なさを嘆いておりました。
その内、これは私自身の不徳?好奇心の旺盛さに係わることで、
何点かの句には見覚えがあり、作者までが見えてしまったのは
まことに残念なことでありました。

まあ、それはそれとして、
そういう色眼鏡(身内びいき。。かな)を差っ引いて
05 青い椅子、07 着衣、10 とろりとあかき、14 薄荷菓子、22 碌々、34 日焼けのなすびの六作品を第一次選考として残させていただきました。

さて、難しいのはこれからで
せめて六点の持つ点さえあれば丸く収めたがる日本人気質なるものを発揮し
均等に分けてちゃんちゃんということになったのですが、
いかんせん手持ちは三点。。。

<05 青い椅子>
「キリトリ線通りに虹を切らむかな」「合歓の木や真空管のごと真昼」
上記二句が作品の中で群を抜いて秀でておりました。
しかし、全体を作品として考えるときに、他の句の力量が寂しいと感じました。

<07 着衣>
「主婦として裸足ですごす午前中」「如雨露から捩れた水の出てきたり」
女流の視点というのは男性のそれとは違い好奇の目で見られがちで有り
また見られることを喜びに感じる作家も多く見受けられます。
この句の作者には、そういう媚びた部分が見られず好感が持てます。

<10 とろりとあかき>
「聖五月しぼれば水の出る地球」「おおばこのちよつと踏まれに生ひ出けり」
「口ごたへして赤すぎる苺かな」「らんちうのとろりとあかき残暑かな」
この作者の句には断言することによって共感する部分が多かったです。
それが押しつけと感じないうちは面白い!と思うのでしょうが
その反面、押し付けられていると感じた時には、首を捻ってしまうのも確かです。
どこまで、読み手を欺けるか楽しみではあるのですが。

<14 薄荷菓子>
句の構成、句の面白みにおいて熟練されすぎて
別格のような(リングが違う)雰囲気を醸し出してます。
そういう点では、新鮮味に欠けるのかもしれません。

<22 碌々> 
「はんざきがゐて水底といふがあり」「有刺鉄線空蝉をぶら下げて」
「見せずとも褒め称えつつステテコを」「桑の実の甘くてボール見つからず」
句歴の長い方の作品に思えますが、
俳人俳人した変な癖のない句に面白さを感じます。

<34 日焼けのなすび>
口語を使う事によって醸し出される瑞々しさ、若々しさは
今回の作品群の中ではピカイチかと思います。
それがたとえ聞きなれたフレーズであったとしてもです。

米男選
10 とろりとあかき  1点
22 碌々       1点
34 日焼けのなすび  1点

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20 浜いぶき

03 成層圏 2点

物語性豊かな世界が、17音のなかに過不足なく充ちていて、読み込むほどに惹かれ
ました。
「裸身いま内より光出しさうな」
「たちあふひ成層圏を吹く風よ」
潔く主観を言い切り、しかも言葉が感覚に追いついています。読む私は置いていかれ
ません。
「未だ土の濡れてをるなり夏の鹿」
「斎宮の袂を抜けて朝螢」
「ゆらゆらと祝女戻りくる日の盛り」
句の世界の神話的な美しさ、ぎりぎりではぐらかされるような、
幻惑される空気が魅力だと思うのですが、
語の選び方、運び方の合理的な美しさが、それを深く支えていると思いました。
どの句も、言葉から立ち上がるイメージにぶれがない。

作者は、感じたことを言葉に置き換えるのではなく、言葉をもって感じる人なのだと
思いました。
羨ましく、憧れを抱きます。

08 夏痩 1点

「夏の蝶自画像の目はひらいてゐる」
「停留所まで豆腐屋の打水は」
「掬はるる前夜の金魚なり黒し」
が、とくに良かったです。

奇をてらわず、ごく質素な単語だけを使っているのに、
ほどよく現実から遊離してしまったような、不思議な感覚にさせられます。
「打水は」で止めたり、「金魚なり黒し」と切り返したりする語法も、
リズムの崩しかたが小気味良いので、巧みに新鮮なイメージを創り出していると感じ
ました。