モノの味方 〔8〕 ……五十嵐秀彦
鞄
初出:『藍生』2007年5月号
鞄中毒という「病気」があると言う。鞄を持たずにいると心が不安定になるという、まあ依存症のたぐいであろう。かく言う私は、筋金入りの鞄中毒者である。
誤解のないように言うと、けっして鞄マニアでもコレクターでもない。事実、私の所持している鞄は無名のボロ鞄二種のみだ。しかし、それを片時も手放すことがない。仕事に行くときも、休日の散歩のときも、必ず持ち歩いている。
鞄の中には、ペン数本、ノート、原稿用紙、歳時記、文庫本二冊が入っている。中でも絶対にゆずれないのがペンとノートだ。これなしでは家を一歩も出られない。俳句を作るためであろうか、感心なことである、と思われるかもしれないが、残念ながらそうではない。一人になったときに書くものを持たずにいることが耐えられないのである。
これは鞄中毒と言うより、書くことの中毒患者なのだと気づいたが、そんなことに気づいてもしかたがない。今日も鞄の中にペンとノートが入っていることをチェックして家を出るのである。
難儀なことである。
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