モノの味方 〔9〕 ……五十嵐秀彦
鍵
初出:『藍生』2007年6月号
じゃらじゃらと鍵束である。
家の鍵、職場の鍵、物置の鍵、この小さいのは自転車の鍵だ。そして素性不明の鍵がある。私の鍵束にはいつもどこの鍵なのかわからぬものが、ひとつふたつぶら下がっている。整理をしても数年たてばまた同じように不明の鍵があらわれる。おそらく重要と思ったからこの束に加えられたはずなのに。
都合の悪いことは強引にでも忘れてしまう私の性格からおしはかると、その素性が気になってくる。これらの鍵の存在は不安の象徴にも見え、鋸のような形状は見失われた暗号であるのかもしれぬ。
どこの鍵なのか忘れられてしまったとき、鍵は意味を喪ってしまう。意味を喪ってしまっては、いずれどこかに消えてしまう運命だ。もしその鍵で閉じられた扉が再び私の前にあらわれても、そうなってしまっては、もう開けることができない。喪われた記憶さながらに。
無理にこじ開けたとしても中には、忘れてしまいたかった不安が、身体を丸めてうずくまっているのかもしれぬ。
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