2007-09-02

ブーメラン蝉 中嶋憲武

ブーメラン蝉 ……中嶋憲武



ほとほと蝉が五月蝿。

朝はもちろん、昼、夕方、夜、夜中まで鳴く。
24時間ひっきりなしに鳴いている。
この間なんか、夜中の3時頃、蝉の声で起きてしまったくらい。

3畳一間の部屋の向かいは、医院のお宅のこんもりとした茂みになっているため、蝉の鳴き易い環境なのだろう。

夜、帰ってくると、必ずと言っていいほど、油蝉がひっくり返っている。いわゆる擬死という奴であろう。

きのうの句会で面白い話を聴いた。

朝、出掛けるときに玄関に油蝉が仰向けになっているのを見て、そのまま出掛け、夜、帰ってきた時、まだ仰向けになっていたので、死んでいるのかと思い、そっと触ったら、ジジジッと鳴いて、飛んでいってしまったという。

寝ていたのか?それにしても、のんき大将な蝉である。

僕の俺の場合はどうかというと、夜帰ってきて、蝉(だいたい油蝉)が仰向けになっていたんで、蝉を掴んで、(このとき、だいたい、ビビーッとか、ジジーッとか鳴く。まれに唖蝉のこともある)向かいの生け垣のなかの茂みへ、抛りなげてやると、ビビビーッとか鳴きながら、僕のところへ戻ってきて、シャツのポケットのところに、ぴとっと貼り付いた。人がせっかく親切心、仏心出して、抛り投げてやったのに帰ってくるやつがあるかい!と、もう一度投げると、きゃつは、ジジジーッとか鳴きながら、反転して戻ってきて、僕の俺のズボンの膝のあたりに、ぴとっと貼り付く。きみ、なんかシツコイよ。そういうキャラやったっけ?とか独りごちながら、また放り投げると、ビビビーッとか鳴きながら、くるっと反転して戻ってきて、僕のシャーツの肩のあたりにぴとっと、貼り付く。三回目ともなると、なんだか俺も、些か怖くなってきて、その蝉を掴んで、茂みの暗闇へ抛り投げると、「うひゃー」と叫びながら、急いでドアを開け、素早く身を滑り込ませ、ドアを締めた。

はあはあ。

部屋へ入って、やれやれと、熱い緑茶を飲んでいると、窓ガラスに「ビャーッ」とか鳴きながら、蝉がぶつかってくる。灯を求めているのか、俺を求めているのか。蝉よ、きみは誰かの生まれ変わりなのか?輪廻転生して、俺のところへきたのかどうかは、誰も知る由もなし。



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