2007-09-30

「俳ラ」去来考 宮崎二健

「俳ラ」去来考 ……宮崎二健


かれこれ14回を重ねる「独演!俳句ライブ」となった。1998年の3月に創めたので、来年は、俳ラ創始十周年となる。したがって今回は「プレ俳ラ創始十周年」の朗読会だ。この俳句活動の母体は、俳句志{もののふの会}という幽霊団体おぼしきもの。まさに“…兵どもが夢の跡”と言った按配。墓守が小生ということになる。

俳句を志すもののふの会は、一時期、若い有能な俳人たちが四方八方から、毎月弊店サムライに集って来て、句会と徹底討論が繰り広げられた。通信句会も兼ねた小冊子の句会報発行も、それはそれは充実したものだった。編集と発行は、1994年4月の発足当初の初代の森須蘭から、後を私が引き受けて日夜ワープロを駆使して悪戦苦闘した。

家族からは白い目で見られ、仕事には遅刻して支障をきたした。やがて浜松町での未定句会で知り合った熱意あるキャリア女性が、編集子になってくれて、楽にはなったのは束の間、刷新すべき会名の新ロゴの好みの違いが、編集方針問題に発展し、いざこざが収まらず、結局分裂事件となって、大方は遠のいてしまった。

こういう時は会の目的や理念などではなく、人間関係最優先の判断がなされるものだと痛感した。商売を考慮して丸く収めれば収まったのだが、ついつい本心を主張してしまった。その後の残党数名で、句会時に吟行は継続した。奈落の底とでも言おうか、私と佐藤榮市と二人ぼっち句会を何度かやった。句会にはならないので通信句会の作品の合評会を行った。博学で歯に衣を着せない佐藤榮市からは、論作面で多くを学びとった。

1997年の秋、足利市のジャズ喫茶「オーネット」まで遠征し、サトウケヤキの自作詩朗読の肉体的ライブを鑑賞した。ライブ後、サトウケヤキは詩歌に関わる観客の何人かに自己紹介を求めた。幻想詩人の西野りーあや、私に矛先が向けられた。「俳人ならば自句を朗読せよ」と強要された。

言われるがまま、恐る恐る鞄の中のノートを取り出して、結果的に約10分間も夢中で自句を朗読した。途中サトウケヤキが後ろからわが股座に頭を突っ込んできて、なんと朗読中の私を彼女の背中に乗っけたではないか。足が浮いたままたくましい女の体温を感じつつ朗読を続けた。観客がじっと見つめて聞き入っていることが眩かった。こんなことは初体験だった。この経験において、俳人も朗読活動をするべきだと気付いた。

新宿に帰って、早速もののふの会の連中に提案し、1998年3月1日に「独演!俳句ライブ」を試みるに至った。活動の意図は「俳の実行」と位置づけた。「俳ラ」のコンセプトやスローガンは、この時の初心を煮詰めて掲げている。賛同者7名出演、新潟からテープ参加1名、サトウケヤキ飛入り、観客2名、という手前味噌で淋しいものだった。しかしながらギネマの度肝を抜く舞台には全員驚いた。何しろシュミーズ姿で、墨汁を口から垂れ流し、ヌードではないのだが股間丸見えの圧巻のシーンには赤面した。久しく俳の人を見た。

母ちゃんまた泣いているのかそんな瓶の底で ギネマ

何をおいても目先のパフォーマンスを上回る自由律俳句のインパクトと、その朗読表現の意も言われぬ妙味に心酔した。その後、「俳ラ」は、珍妙なるモチベーションを失わず継続し続けている。

「俳ラ」の特徴は色々あるが、殊に、主宰者や先生や審査員が存在しない。特に平等主義を謳っている訳ではない。私も古い人間で、長を敬い恭しく智恵を授かるべきであると思っている。反面、誰彼に余計な気を使うことなく、表現活動を伸び伸びとやりたいとも思う。少しでも実入りが欲しいので招待券は作らない。俳の人としては取り立てて珍しくない環境作りかと思う。所詮俳句の先生や著名人においては、季語に詳しく添削に長けていても、俳句朗読の経験値や指導力のある人は、そうざらにはいない。

私が出会った朗読活動する俳人では、ピアノ弾き語りの五島瑛巳(俳ラ6出演)や、オペラ風朗誦の山本掌(俳ラ3出演)、そして国際舞台で活躍する夏石番矢くらいなものだ。氏からは1999年5月に「第2回現代俳句協会朗読賞」を賜った。ちなみに、ギネマは、2000年12月「第1回福島泰樹朗読賞」で優秀賞を獲得した。

両朗読賞は1~2回で影を潜めているのが惜しまれる。歴代の受賞者としての俳句朗読の栄光の歴史に君臨したかったのだが、そういう事には無縁の身の上だった。その点、「俳ラ」は大物先生の後ろ盾もないのに長生きをしている。道場破りもやってこない。たまに視察に来る程度だ。14回を14歳とすれば犬猫では寿命の歳月だ。お陰で有能な俳句朗読者を輩出した、あるいは交わった。今後も個人の俳句朗読のきっかけ作りにでもなれば幸いだ。

2000年12月の「俳ラ6」に初出演して鬼才を放った島田牙城は、2002年3月、地元の佐久市で「朗読火山俳」を立ち上げ、毎年滞りなく開催して盛況を誇っている。偉業だ。その「朗読火山俳」出演で、ご一緒したことがある藤原龍一郎(媚庵)は、名実共に実力あるマルチ朗読者だ。欲を言えば詩歌界で遅れをとっている俳人の俳句朗読に焦点を絞った活動をやってくれたらもっと開けると思うのだが。

俳句の朗読でも弾き語りでも器用にこなす俳人は、けっこういるけれども、その場限りで終わってしまうことは惜しまれる。しかし事あるごとに頭をもたげるので、それはそれで良いのかも知れない。俳壇の結社活動や同人誌活動、しいては句会や吟行に熱心に飛び回る蜜蜂俳人のエネルギーを朗読会に転化すれば、経験的に「ものの見えたる光」となって、花圃が広がるであろう。

「…言ひ止むべし」は、一句に結実するというささやかなことに留まらず、己が心にこびり付いた錆を払拭し、俳句のビジュアル系新境地が開けて来るであろう。

そんな思いに駆られて、今年の秋も俳句朗読の豊年祭を執り行なう。見に来て、飛入り参加して、共に実体験を積もう。

ちぐはぐに積み木積まれて豊年祭  二健





————俳句志{もののふの会}第96回俳句活動————

◆◆◆◆◆◆◆≪独演!俳句ライブ14≫◆◆◆◆◆◆◆

________俳句朗読の豊年祭_________

~Haiku Reading Solo Performance"HAILA-14th"by Mononofunokai~
「俳句朗読の実践窟*先ず口承あり*俳の表現かくありき」

【俳ラ三大原則】
<自句朗読=自作の俳句か川柳・形式不問>
<肉声=マイク使用せず><独演=共演せず>
—————————————————————————
◇日時:2007年10月7日(日)
開場,夜6:00. 開演,6:30~閉演,8:30頃
◇会場:JazzBar サムライ
新宿3-35-5 守ビル5F 03-3341-0383
◇木戸:1500円(1Drink)

◇演者:若頭=タニユースケ(司会兼任)、天狗仮面=二健、弾語=ながしろばんり、桃色川柳=緋川小夏、役者=神山てんがい(初っ端の口上兼任)、サトビの女王=ギネマ ☆恒例~途中観客飛入り!

◇窓口:SAMURAI (二健@煽動と統括) jike@n.email.ne.jp
◇WebSite:
▽ブログ「俳ラ」 http://haila.seesaa.net/
▽独演!俳句ライブ」活動歴 1998~2007 http://www.ne.jp/asahi/hai/ten/hl-katudoreki.htm
◇主催:俳句志{もののふの会}~Jiken@Agitator

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

0 comments: