2008-03-02

第2回週刊俳句賞 応募作品 テキスト

第2回週刊俳句賞 応募作品 全22作品

01
屋 根

屋根の上に春月のぼり憩ひをり

渋滞の灯一連柏餅

熱もてるノートパソコン夏痩す

行々子夜の公園は木の密に

夕ぐれの明るさの瓜冷やしけり

団扇つかふ胡座の股に肘つけて

蛇口よりほとばしりけり生身魂

桔梗の花よりその葉あたたかき

カーテン吹かれ虫籠に届かざる

壁の絵を取りかえてゐる野分かな


02
引 鳥

在りし日の父の背中や夏木立

空澄みてIPOD鳴り止まぬまま

昼寝より覚めて芳し醤油かな

ざわめいて鉢の金魚は転回す

蝉鳴きて靴紐ぐつと結びけり

ちいさきがより強さなりふきのとう

五月雨の行き着く先が恋路なり

古書の香に成熟す洋梨おもふ

陽炎や空き家憮然と佇んで

鳥引いて母から便り届きけり


03
life

婚礼の胸を花野と思ひけり

かりがねや背中で閉まる自動ドア

耳に耳触るる寒椿のやうに

手の中の鍵のつめたき吹雪かな

恥づかしささびしさぬるき懐炉揉む

手袋の指抽斗にはさむなり

バレンタインデーの鞄の底に鋲

頬杖も人それぞれや大試験

春宵の花屋に寄らず帰りけり

カラオケに来て泣いてゐる卒業子


04
異邦人

ひまわりのみな孤独なるアラベスク

暖房車ふと重くなる文庫本

湖に水足す銀の如雨露かな

粉雪を食う全身を空にして

西瓜畑隠れん坊の息消える

好きな子の跡をつければ遠花火

ケータイを落とす花畑の底に

稲光吸い込んでゆく枕かな

夏虫の争い標本瓶の中

異邦人の街へと続く夜店かな


05
傷ついて

雪月夜言葉はナイフにもなつて

冬の夜や愛を言葉にして陳腐

自分から切り出す話冬の草

冗談に傷ついてをり冬苺

春近しキャプテン一人残りけり

龍天に昇る追悼コンサート

春泥を耕すごとく遊びけり

春愁のパンの空気を抜きにけり

山葵田の水は富士より温みけり

終盤の指揮は大きくクロッカス


06
海鳴り

話すことなくした雪の風見鶏

水鳥の声やタクシー休憩中

冬珊瑚兄が欲しいと海鳴りす

クレームの電話アロエの花盛り

午睡して幼き春を抱きけり

母は庭に夢を隠している二月

春風を呼ぶみずいろのハーモニカ

春ショール本音を描ききる鉛筆

卒業の朝の新聞読みにけり

てふてふのこゑは光をさそひけり


07
気分はもう戦争

開戦ぞ身近な猿の後頭部

撃たれてゲームソフトを交換す

ひろびろと乾くや印刷用の烏賊

竹やりに名前を彫りし彫り師かな

戦場を先づくちびるがもげてゆき

屏風もて運ぶ草生す屍かな

上空やミサイルは雌犬となりぬ

逃げまどふ防空づきん赤づきん

焼跡より出てくるテスト全部満点

終戦やリプトン紅茶永遠に


08
きりん

寒月や空の水槽光りたる

養豚車揺れ助手席のポインセチア

無精髭嫌ひ嫌ひと鱈鍋す

鍵の音重なりあつて御神渡り

返品雑誌堆うず高く漱石忌

少女らの頬赤かりし弓始

猫より欠伸移りし冬の日かな

石切り場より出でしかな冬の虹

スイッチを切りてひとりになる小春

春待つや蹴って蹴ってく補助輪車


09
ハーモニカ

教会の影梅の木にかかりたる

春の風ハーモニカには穴の列

ことごとく空を透きたる梅見かな

図書館の窓あをあをと春休み

残る鴨ボート置き場のごちやとして

爛春の物みな顔にみえし日よ

花冷えの石碑に空のかすかなる

カーテンの波うちぎはへ春の雪

尻のせてふかき座椅子や百千鳥

春の灯のともり柱の短さよ


10
ぽろぽろと

この先は各駅停車春の旅

卒業期画家の名前の喫茶店

春の私うずまき管をふたつ持つ

水槽に蛸の吸盤春の月

ぽろぽろと梅が咲く日のつけまつげ

梅を見ていて頭蓋骨白くなる

蝶の眼の中でわたしが裏返る

人間の頭重たき遅日かな

春愁トイレに青き水流れ

春の夕暮れ砂場から魚の歯


11
大 和

新涼や死にゆく祖父と話題がない

蛍光灯照るや螺旋の梨の皮

春空の底の電線修理中

負けたんじゃない譲ったの春の鹿

高校生ぴいちくぱあちく鷹鳩に

春の鹿のぬれた眼を奪ひたし

たいていのものは輝く春夕日

あの変な屋根は教会日足伸ぶ

春の山白い風車は発電中

泥ついて気にもせぬらし春の鹿


12
移りゆく四季の句

凍蝶の生の重さや石の上

霜を踏む音に重なる笑い声

雪婆冬の訪れ知らせゆく

雪解けのよどみし水の行く末は

ひな祭り心華やぐ雨夜かな

夜に咲く色とりどりの浴衣かな

打ち水をさす人々の優しさよ

夏の日の思い出詰めたラムネ飲む

朝露に濡れる足元いと涼し

膨らんだ餅の中には夢詰まる


13


かすみ草まあるく咲いて雨の音

春色のネイルなぞなぞあそびなり

祖母の梅また咲く熊のぬいぐるみ

ゆったりと曲がる二車線春の闇

交番のあたり明るし花の雨

香るもの多くてバレンタインデー

何もかも恐ろし川を行く子猫

回廊の慌しくて沈丁花

略奪愛未遂のままか猫の恋

菜の花は踏まないで手の鳴る方へ


14
四季の移り変わり

初雪と子どもの声が空に舞ふ

地に降りてすぐに溶けゆく細雪

小春日を浴びてしばしの一休み

夢を見て種蒔きすれば芽吹く色

道の途中菫の色が目の端に

満月の光届かぬ街の中

緩やかに巡る山々紅葉狩り

滴乗せあじさいの花の水遊び

水の中掬ひし金魚がひとりきり

稲妻の遠くの音が耳を打つ


15
四 季

朝寝するまどろむ君とただ二人

はたたがみ天の叫びか呼び声か

木漏れ日と素馨の香りに酔ひし午後

虫時雨耳に入れつつだんご食む

白菊が揺れる墓標よくぐつうた

窓辺より足跡たどる冬日和

夢に見し灰の雪ふる焼けた空

篝火へ向かひて死する冬の蝶

寂寞とたたずむ寒月吾に似て

東雲に冴え吹く疾風身に刺され


16
昼の月

冬凪やうすく華やぐ三角州

東より流るる川や雪しんしん

結氷をまだ見ぬ水辺にて遊ぶ

受刑者の横一列やクリスマス

一抹の水を抱ける芒かな

海岸に白き車や春浅し

春暁の鏡の裏の温みかな

蠟梅や蛇口に残る一雫

雨傘を乾かしてゐる春の宵

コンタクトレンズにあふれ春の水


17
多孔質

春宵の爪はぬぬぬと伸びゆけり

死に飽いて無垢なる二人静かな

胸骨のうらを涼しき牛のちち

炎昼に幽霊の歯が追ふてくる

多孔質の友よしつかり憎め憎め

神の名は多すぎないか秋の蝉

いつせいに埴輪の歌いだす良夜

大根の切りくち乾きゆくを見ゆ

鯰打ちのめされ雪の積もるまま

流木の哭きをる冬の苺買ふ


18
来歴否認

鬼儺もう鬼の句も見飽きたし

継子だという夢を見る今朝の春

雪残る血液型を確かめる

春の雪本当の阿母さんはどこ

きさらぎや一つ目小僧追いかける

古都に居て木の芽は阿修羅像気取り

春の雨ガラスケースに土偶の眼

正体は流浪の王子いぬふぐり

涅槃西風テラノボンサンヘヲコイタ

トンネルを脱ければ雪の降らぬ国


19
日常の中で

春の風邪ホットレモンに満たさるる

天然味ホップの旨みは深く苦い

夢多き笑顔ばかりや千歳飴

福笑い平成世代に薄れゆく

生姜湯すすりて熱の体かな

待ち人に涙一粒氷解く 

初雪で寒さ感ずる友の足

アリエナイ聖夜のともは参考書

やってきた春一番と花粉症

風車手に持ち歩む第一歩


20
暖かな、冷たくとも暖かな光

門を出て霙混じりの花吹雪

てる坊主リュックに結び遠足へ

磯遊び岩陰のぞき貝つかむ

水槽にビー玉落とす暖かし

雪景色花火にあわせ変わる色

裸木をてんでに撓める吹雪かな

沈黙を轆轤でまわす外は雪

紅葉散るキャンドルファイアに照らされて

穏やかな草摘む指に海水晶(アクアマリン)

赤んぼう警戒しつつ手になずな


21
心の底

この朝の薄氷という底面も

亀鳴くや空からごみの降つて来る

雑貨屋の赤赤赤や涅槃の日

三寒四温喉元の髭残り

台本のB作が死ぬ月朧

部屋荒れてそろそろ緋桃咲いて来し

蛇穴を出てとろとろの化粧水

花水木杉並区からリクエスト

黄砂ふる有馬朗人の自筆かな

さつきまで夜汽車なりけり春の潮


22
傘のうら

淡雪や展望室の仄暗し

白魚にちひさき眼透けゐたり

残雪の瘤のやうなる交差点

鉄骨の組み上がりけり木の芽吹く

蒲公英にあるひとすぢの真空よ

傘のうらの色やはらかき春の雨

ごつそりと雄蕊の束や落椿

春の塵連れ入線の電車かな

卒業の紅きスカーフほどきけり

踏青や髪上げてより鬼となる




2 comments:

匿名 さんのコメント...

15 四 季

朝寝するまどろむ君とただ二人

虫時雨耳に入れつつだんご食む

窓辺より足跡たどる冬日和

これらが好きな句です。

wh さんのコメント...

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匿名さん、お手数ですが、
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