【週俳2月の俳句を読む】 白濱一羊

【週俳2月の俳句を読む】
そっけない顔で白濱一羊



「誰か聞く」神野紗希

手袋のかぶせてありし杭の先　　神野紗希

良いところに目をつけてますねぇ。これはまさに俳人の視線です。手袋はたぶん誰かの落とし物。子供でしょうか？手袋を拾った人が杭に被せたのでしょう。この微妙なおかしさこそ、俳句の諧謔性と言えましょう。

羨まし兄の居ること燕には　　同

歳の離れた兄はいりませんか？あっ、いらない。

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「記憶」　　 　宮嶋梓帆

風花や川越えて行く葬儀場　　宮嶋梓帆

「川越えて行く」から何なんだと聞かれると答えられません。でも何かが心を突っつきます。「風花」と「葬儀場」は付きすぎかも知れませんが、この場合はＯＫでしょう。

初雪もなんまいだぶもまだ続き　　同

葱畑悼むに飽きてきたりけり　　同

前の句の情感とは一転して、死へ対するドライな感情。冷たいというのでもなく、現代人の普通の感情なのでしょう。亡くなった方と作者との距離もうかがえます。

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「いいや」矢口 晃

綿虫は謝りたくて待つてゐる　　矢口 晃

下手なりにぐわんばればよき桜かな　　同

鷹鳩と化すや嫌はれてもいいや　　同

夢の中で寂しい蝶になつてゐた 　　同

どの句も面白くできていますし、「夢の中で」のパロディもわかります。ただ、読者より作者自身のほうが面白がってしまっているのではないかと感じました。俳句はそっけない顔をして立っているほうが魅力的だと思うのですが。

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「毛皮夫人」中嶋憲武

双六の折目や駒の躓ける　　中嶋憲武

ハーモニカ吹くたび枯木近づきぬ　　同

雪催かさねて重き包装紙　　同

「双六」のほどよい機知、「ハーモニカ」の良質な感性、「雪催」の取り合わせの妙。どの句も共感しながら、楽しませていただきました。句作りの方向性が自分に近い方なのかなと感じました。


「毛皮娘」さいばら天気

もの買ひに入るに門松が邪魔　　さいばら天気

贋作の屏風のごとく富士の山　　同

「門松」という季語を本意からずらしてみせて、読者を土俵際でうっちゃる試合巧者の作者。「贋作の」の句の、本物のほうが偽物っぽいという指摘も核心を言い当てています。才気にあふれている作者ですが、少し重厚な写生句もみてみたい。きっと上手いのでしょう。




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