2008-04-06

第2回週刊俳句賞 筑紫磐井 選と選評

筑紫磐井 選と選評


【総評】
選の仕方が難しくあえて厳格な方針を立ててみた。それは十句の中で良いと思った句を選び、後の句は切り捨てた。その選んだ句のみを候補作品として優劣比較をした。従って十句の中にどんなまずい句が混じっていても何ら影響を受けなかった。二句と五句を比較することもあったが、かといって五句を優先することもなかった。いわば私自身が予選をして応募したという状態で眺めてみたわけである。学生俳句ならば長いキャリアといっても二三年だろうから悪い点をあげつらってもしょうがない。いい点だけを評価したいと思ったらこういう方式になったのである。その結果、他の審査員とだいぶ違った結果になったかもしれない。

昨年の選では、応募句に似たような句が多いと憎まれ口をたたいたが、今回は結構多彩で楽しめた。どんな人が応募したのかちょっと興味がある。偉いように見える特別審査員はそんなに偉くはない(たぶん誰も偉いなどと思っていないでしょう)。審査員が選んだ句(選ばなかった句)というと気分が悪いかもしれないが、審査員が選ばせられてしまった句と考えれば主客逆転するわけで、選ばれなかった句は審査員の器が小さくて選べなかった可能性もある。楽しみは、他の審査員が1点も入れてなかった応募作を1位に推せていたら、今回審査員を引き受けさせていただいた甲斐もあろうというものである。

【作品評】

[1位:3点]
21 心の底

意外性がうまく俳諧の器にあっている。ありふれた日常性を、ほんのすこし、―――五ミリほどずらしただけで俳句が生まれることを生得しているに違いない。「有馬朗人」で俳句になるとは思わなかった。

蛇穴を出てとろとろの化粧水
花水木杉並区からリクエスト
黄砂降る有馬朗人の自筆かな


[2位:2点]
16 昼の月

微妙であえかな心理が心地よい。学生にして達者というのはやや気持ち悪いが、どうせ「少年易老学難成」であっという間に年は取るもの、そのときのいい財産になるであろう。

冬凪やうすく華やぐ三角州
臘梅や蛇口に残る一雫


[3位:1点]
09 ハーモニカ

一番俳諧味に富んでいた。微妙なのは「はからい」が見えることで、「この作者、やったな」といわれないことも俳句には大事だろう。

残る鴨ボート置き場のごちやとして
闌け爛春の物みな顔に見えし日よ
カーテンの波うちぎはへ春の雪
尻のせてふかき座椅子や百千鳥


[番外]

03 life

一番点も多く最後まで入選の候補に置いたが、入選を3人に絞った(誰が決めたわけでもない、私のこだわり)ためはみ出してしまった残念な作品。前3者に比べると、ほんのちょっと切れが欲しかった。

かりがねや背中で閉まる自動ドア
恥づかしささびしさぬるき懐炉揉む
バレンタインデーの靴の底に鋲
春宵の花屋に寄らす帰りけり
カラオケに来て泣いてゐる卒業子


05 傷ついて

応募作の中で一番若い人らしさを感じた。

冬の夜や愛を言葉にして陳腐
竜天に昇る追悼コンサート


08 きりん

養豚車揺れ助手席のポインセチア
無精髭嫌ひ嫌ひと鱈鍋す


13 青

交番のあたり明るし花の雨
回廊の慌しくて沈丁花


22 傘のうら

残雪の瘤のやうなる交差点
蒲公英にあるひとすぢの真空よ


【しめくくり】
学生で20人以上の応募があるというのはたいしたものである。昨年に比べて多彩と感じたのは、即物的写実的な佳句も混じっていたためであろう。ちなみに、今42歳で逝った福永耕二について書いているので、30年前の若い作家と比較して、現在の新世代が俳句について何を考えているか、と考えた。耕二は「俳句は姿勢」と言ったのだが…。私の「豈」でもこうした問題を特集してみたいと思っている。

  燕が切る空の十字はみづみづし 福永耕二
  雪上に何焚けばこの黒煙
  新宿ははるかなる墓碑鳥渡る





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