2008-05-11

【週俳4月の俳句を読む】岡田由季

【週俳4月の俳句を読む】
岡田由季
おかしみとか、物悲しさとか



花御堂電気コードを垂らしをり   寺澤一雄

今までに見た花御堂に電気コードがあった記憶はない。しかしこの花御堂にはあったのだろう。その事実のみが書かれている。

何のための電気コードかわからないが、今は使われておらず、中途半端に束ねられて後ろに垂れている。美しく飾られた花御堂にはそぐわないようでもあり、それでも切り離すことはできない一部分として所在無げに垂れている。

一見、身も蓋もないと思えるような事柄を、あえてそのまま述べることで、おかしみとか、物悲しさとか、春の気分がほんのりと伝わってくる。花御堂、という俳人好みのアイテムを句材にしながら、作者の視点はいわゆる俳人的なものの見方にとどまらず率直だが、表出される味わいのほんのり加減は、まさに俳句という感じがする。 


不健全図書を世に出しあたたかし   松本てふこ

まず不健全図書というタイトルにドキドキする。作品掲載号の後記によると、作者は「不健全図書関係のお仕事をされているらしい」とのこと。思いつきや奇をてらったものではなく、作者にとってはリアルな日常なのだ。

作者が実際自分の職業をどう捉えているのかは計り知れないが、「世に出し」という表現から、どこか誇らしい気分を感じる。そして「あたたかし」と言い切るころにより、なんとも言えないおおらかなエネルギーが満ちてくるのである。


観桜のもつとも豚の重装備      二輪通

亀鳴けば前向きに豚生きるといふ   同

豚の句ばかりを作る作者。とは言っても、動物の豚にこだわっているわけではない。「豚」として表現される、人間のキャラクターを題材にした作品と考えていいだろう。

登場する「豚」が同一人物なのか、それぞれ違うのかはわからないが、少し間の悪い、不器用なキャラクターとして描かれることが多い。観桜の句でも、皆が軽やかな装いをしているのに、花粉症なのか、寒がりなのか、ひとり場違いな「重装備」で来てしまう。

豚という言葉にあまりメッセージは感じないし、それほどリアリティを感じるキャラクターでもないのに、読んでいくうちに「前向きに生きるといふ」豚をだんだん応援したくなって来る。それが作者の戦略かもしれない。


巣箱ひとつ作りしのみのひと日かな   守屋茂泰

巣箱を作るという行為には前向きな明るさがある。どんな鳥が来るのかという期待もあるし、作業自体は地道でも、生業とは違った楽しさがありそうに思う。それなのにこの句にどこか寂しい印象を受けるのは「ひとつ」と「ひと日」の重なりであろうか。親子で賑やかに会話しながら巣箱作りをしたとしても成り立つ内容だが、独りの時間を楽しみながら作業しているところをイメージして読んだ。


蜃気楼失敗作のごとく立つ   佐藤郁良

一読した時には、蜃気楼が失敗作、というのは、わかりすぎる比喩ではないかと思ったが、何度か読むうち、「失敗作」という言葉のゴツゴツした語感や、つきまとうユーモラスな感じが蜃気楼の表現としてユニークなのではないかと感じてきた。私自身は蜃気楼を見たことがないのに、テレビや、本などいろいろなものから与えられた多くの蜃気楼の情報から、頭の中でなにかファンタスティックなイメージを作り上げていた。この句の捉えているものは本来の気象現象の蜃気楼に近いように思える。


寺澤一雄 「春の服」10句  →読む
松本てふこ 「不健全図書」10句  →読む
二輪 通 「豚の春」10句  →読む
守谷茂泰 「春の坂」10句  → 読む
佐藤郁良 「白磁の首」10句  →読む




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