【週俳4月の俳句を読む】
さいばら天気
10戦10勝の絶対存在
世界は、豚だけで成り立っているのではない。おそらく。
いろいろなもので出来上がっている。なのに、二輪通の俳句には、豚ばかり。
豚の不敗神話の中のさくらかな
もう数年前になるだろうか。「炎環」という結社に、豚の句しか発表しない人がいると聞いたのは。聞いたとたんに興味がわき、「炎環」所属の知人に頼み、十数句を読ませてもらった。おもしろかった。そこには多彩な豚が、いた。
「週刊俳句」が始まった当初から、いつか、この「豚俳句」の作家に書いてもらいたいと思い続け、先般、ついに句稿を依頼した。積年の思いがかなって、掲載となったのが、「豚の春」10句だ。
多彩な豚は健在である。豚の大活躍である。
疑惑をかけられ、逃げまわり、包帯がとれて卒業し、寮に伝説を残し、花守を叱り、ガガーリンと並び合い、消火器を捨て、前向きに生きる豚。
豚。豚。豚。だからといって、ここにある世界は童話的ではない。寓話的でもない。ここにある「豚」の語には、よくあるところの罵倒のニュアンスもない。それらの事情に気づくとき、「豚の春」の10句がいずれも、「豚」にまつわる文芸的・言語的な伝統・因習から自由であることに、私は驚く。
一方、これらの「豚」が、人間(あるいは私、あなた、彼ら)に置き換えることもできなくはないことからすれば、擬人のオンパレードと解する向きもあろう。だが、いったん、豚の存在を認めたが最後、それを素直に受け入れるべきなのだ。わざわざ人間のイメージを重ねることもない。10句なら10句、豚の存在が10遍くりかえされる。これら豚句をそのままに飲み下すのがいい。
掲句。豚は不敗であるという。10戦10勝なのだ。その意味で豚は絶対存在。その「中」の桜とは、なんとめでたい景色だろう。相対のなかで揺らぎ続ける人間のひとりとして、私は崇敬と憧憬の念をもって、この豚句を眺めるのだ。
■寺澤一雄 「春の服」10句 →読む
■松本てふこ 「不健全図書」10句 →読む
■二輪 通 「豚の春」10句 →読む
■守谷茂泰 「春の坂」10句 → 読む
■佐藤郁良 「白磁の首」10句 →読む
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2008-05-11
【週俳4月の俳句を読む】さいばら天気
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