2008-06-08

林田紀音夫全句集拾読 021 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
021





野口 裕





暑き朝ひそかに飯を炊きをはる

昭和22~23年頃の作か。この頃の炊飯が薪なのか、ガスなのかが考えはじめると分からない。大阪ガス株式会社の「百年のあゆみ」を見ると、「終戦時に約17万戸だったガス供給顧客は、昭和23年末には42万戸にまで回復しました。」とあって、ますます分からなくなってきた。

いずれにしろ、火のそばを離れるわけにはいかないだろうから、耐えがたい暑さをじっと耐えている図なのだろう。「ひそかに」が、生活に対する姿勢を端的に表す。


  

足洗ふ水の明るさ朝の蝉

死につゞく日日のこの空夕焼くる

紀音夫らしく瑣事に死を発見する二句。一句目は、生活賛歌ともとれるが、朝の蝉は夕に死ぬ、ということを前提に置いての句だろう。いかにも習作中、という雰囲気。

なお、書体について注意すれば、「蝉」は口ふたつの蝉が印刷されている。「つゞく」と書かれてあれば「日々」の方が良いと思えるが、印刷は「日日」となっている。


  

星空の低くなりしか馬過ぐる

川波をあきらかに見し珈琲のむ

馬の肢人の足ゆき河を見る

三句目、「肢」に「あし」のルビ。

二句目は、第一句集に取られた印(*)がついている。一句目と三句目は取られていない。このあたりの句は、取られている句と取られていない句の差がはっきりしているとは言えない。「珈琲」という意匠の新しさは魅力だったのかもしれないが、「馬」の力強さも捨てがたい。

『林田紀音夫全句集』は、二重掲載になることを厭わず、当時の俳句誌に掲載した句をそのまま載せているので、そうした比較をしやすいのはありがたい。





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