林田紀音夫全句集拾読 022
野口 裕
玉虫を見てよろこびとするに足る
どんな句でも時代を背負っていることにかわりはない。しかし、消え去った景が出てくると色々考えてしまう。スモッグの街でも田んぼが残っていたからだろう。子供の頃、玉虫はちょくちょく見かける昆虫だった。だが、農薬のせいだろうか、あっという間に見かけなくなった。
「よろこびとするに足る」は、昆虫の出現頻度に支えられている言い回しではある。まれではなく、ひんぱんでもない。玉虫は日常生活と直につながる詩語と、時代背景を考慮すれば判定できる。
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桃を食ひ吾家ならぬに捉はれず
手にありて女にみられをりし桃
一句目は、第一句集収録。二句目は洩れている。行儀よく食べることのできない桃を小道具に、人の家に上がり込んでの情景がうまく掬えている点で、前句に一日の長はあるだろう。
だが二句目の、いかにも物語の始まりを思わせる光景も捨てがたい。桃が女の手にあるのか、女に見られている男の手にあるのか、判然としないが、当時の男女関係の在り方を考えると前者の解釈になるだろうか。どちらの解釈をとっても相当に面白い場面ではある。
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2008-06-15
林田紀音夫全句集拾読 022 野口裕
Posted by wh at 0:03
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