林田紀音夫全句集拾読 023
野口 裕
水が流れて揚羽蝶飛躍せり蝶失せし日なたの牛に迷惑す
蝶失せし日向の牛に迷惑す
揚羽蝶捕らへ損ねし指のこる
揚羽出て高さ失ふ水の上
病躯うらぶれて身辺の蝶を愛づ
揚羽出て海に没る日に翅染まる
黒揚羽一体の影地を移る
樹の高さつねに超えゐる一揚羽
揚羽蝶翔ちて病者の手を逃がる
夏蝶や錆色流す河悲し
先週、林田紀音夫の第一句集『風蝕』をテキストにして、読書会を行った。そのときに、今日掲出の第五番目の句に注目が集まった。気になったので、同人誌・俳句雑誌掲出句にまとめられているところから、第一句集の第一章「地上抄」と第二章「林間雑唱」の時代に相当する昭和二二〜二六年の、揚羽蝶(夏蝶)に関する句を抜き出してみた。各句は、それぞれ、
一句目 「金剛」
二句目 「金剛」、「地上抄」
三句目 「金剛」
四句目 「金剛」
五句目 「金剛」、「地上抄」、「青玄」、『風蝕』
六句目 「金剛」、『風蝕』
七句目 「地上抄」、「青玄」、『風蝕』
八句目 「地上抄」
九句目 「青玄」
十句目 「青玄」
に、掲載されたと記録されている。なお、「地上抄」は「金剛」昭和二十五年五月に、自選百句として掲載されたものである。
第一句集では、第一章の時代は戦後の混乱した世相と茫然自失としている「私」がテーマであり、第二章は胸を病んだ事から来る病苦が主なテーマとなっている。このことは、読書会で議論している内に私の中に突然結論として飛び込んできた。
有名な
鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ
は、第一章・第二章のテーマがようやく退きつつある第三章に至って登場し、第一章・第二章のテーマを集大成するような形で置かれている。そこから分水嶺のように、第三章は次第に「死」が顔を出す。
揚羽蝶は、第一章・第二章の時代にはしばしば出てくる。それはまるで、失った「理想」であるかのようにも見える。第三章以降の頻度は、ざっと読んだ限りでは、落ちている。興味深いところではある。
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2008-06-22
林田紀音夫全句集拾読 023 野口裕
Posted by wh at 0:20
Labels: 野口裕, 林田紀音夫, 林田紀音夫全句集拾読
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