2008-06-08

【週俳5月の俳句を読む】馬場龍吉

【週俳5月の俳句を読む】
馬場龍吉
俳句個性とは百合の化した蝶のようなものか



■近 恵×星 力馬×玉簾×中嶋憲武
「一日十句」 自選30句より

ペンギンの羽ばたき速し四月馬鹿   近  恵
包丁の研がれ昭和の日の暮るる  
傘開くところより春暮れにけり
  

どの作品にも「切れ」がしっかり効いている。理になっていない所に物語り、いや詩が生まれるとはこういうことを言うのだろう。例えば三句目。春の暮れはくまなくやってくるものだから、スポットライトを浴びるように暮れてくるわけはないのだが、こう書かれてみると、紛れもなく傘を開いたそこから春が暮れてきたように思えるのだ。そして傘をさす人までもが見えてくる。

 
花過ぎの雨や黒靴下に穴       星 力馬
和をもつて目刺を焼いてをりにけり
遠足の二百人はなれて三人


この人の作品は裏切りの面白さにある。「花過ぎ」と言っても「花の雨」の甘さには変わりないだろう。そこに「黒靴下」がくれば葬礼に違いない。最後の「穴」で見事に裏切ってくれた。次の句「和をもつて」とくれば当然「貴しとなす」なのだが、目刺を焼いているだけ。こうなると堅物の人なら歯痒くなるだろう裏切り。三句目「はなれる」裏切り。しつこいようだが裏切られる快感がある。


自転車を裸足でこげば春の海     玉簾
行く春やサンショウウオの手がひらく
一口で溶けるらくがん月朧

計らいのない気持ちのいい作品が並ぶ。素足で春の海に立っているのであればよくある俳句である。これは裸足で自転車に乗っているのだ。ペダルを裸足で漕ぐという記憶はたしかにある。ペダルを足裏で感じると同じくらい裸足に潮風を感じられるのだ。次の作品。行く春を惜しむように山椒魚の指がゆっくり開くのが見える。三句目は作意が見える作品だが、それも気持ちがいい。

 
北窓を開き南はどうするか      中嶋憲武
日の当たる月のとほくに蜷の道 
人妻に馬鹿と言はるる蛍烏賊


この作品を見るまで「北窓を開く」のに南窓を考えたことはなかった。素朴な思いが素直に俳句になった。二句目。言ってしまえば、日の当たる蜷の道を見ていて見上げたら昼の月が出ていたということだが「日の当たる月のとほく」と表現したところに、日当たっている月に蜷の道があるような屈折感が出た。三句目は「人妻」の艶かしさが、つやつやの蛍烏賊の取り合わせによって生まれている。


俳句実作の一日十句というと課題というより、もはや試練になるのではないだろうか。これらの作品は息をするように生まれたのだろうか。そうだとしたら何とも羨ましい。三人の数ある作品のなかから三句ずつ選ばさせてもらったが、ここに載らなかった何句かの作品のご冥福を祈りたい。

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地球一周してたどりつくキャベツの芯
  杉山久子

俳句は距離も時間も一瞬のうちに具現化できる道具である。それを立証したように大景から近景に迫った作品。「芯」にリアリティーがある。〈語り部と呼ばれ青芒のごとし〉青芒が語り部の清楚な人柄を浮き出させてくれた。〈泉見に行つたきりなるおばあさん〉泉は黄泉の国にもつながるようだ。敢えて「嫗(おみな)」を使わず「おばあさん」にしたところに、昔話を聞いているような懐かしさがある。


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真っ先に芽吹きもっとも寂しい木    伴場とく子

先駆けて芽吹く木はいかにもそうだろうなぁと思えるし「もっとも寂しい木」には理でない面白さがある。作者の胸中そのものを言い換えたのかもしれない。そんな小市民(死語?)的な読み方もできる。〈閑な日はひまなままいて春の雲〉春の雲にはそんな自由をあげたくなる。〈ピアスの穴たくさんあけて花粉症〉ピアスそのものは俗っぽい俳句に陥りやすいのだが、「花粉症」との配合で見事な俳句に化した。

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首刎ねよ首を刎ねよと百千鳥     菊田一平 

ショッキングな言葉から入って、中七のだめ押しがあって百千鳥で収まっている。刑場を固唾を飲んで見守っている群集ではなく、百千鳥の姿があるところに異国か千年を遡っているような既視感がある。〈発掘のけふは休みで翁草〉は一句目とは違った、のどかな春の一日の気持ちよさがある。〈炒飯にきざむ焼豚みどりの夜〉年中作る炒飯だが、薄茶色の炒飯、茶色の焼豚は「みどりの夜」にこそマッチングするのだ。おいしそうではないか。

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螢袋の中を覗きに行かないか     北大路翼

シニカルな個性とも言える、独特な視点を持っている作家だと思う。それを直接的に言わずに素直に口にした作品に惹かれた。〈滝壺は何で溢れないのかな〉などもそうだ。作者が意図する方向性とは逆の読みだとしたら残念だが、読者の一人としてはこちらの方向へ伸びてくれたらうれしい。前書きがほとんどすべてに入っているのが気になった。十七音以外に前書きの要る俳句に意味があるのだろうか。
   


伴場とく子 「ふくらんで」10句 →読む
杉山久子 「芯」10句 →読む
一日十句より
   
「春 や 春」……近 恵/星 力馬/玉簾/中嶋憲武 →読む
 
縦組30句 近 恵 →読む /星 力馬 →読む 
         /玉簾 →読む /中嶋憲武 →読む
菊田一平 「指でつぽ」10句  →読む
Prince K(aka 北大路翼) 「KING COBRA」 10句  →読む

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