【週俳5月の俳句を読む】
鈴木茂雄思い出すだけで鼻のあたりが
ピアスの穴たくさんあけて花粉症 伴場とく子
私事で恐縮だが、一読、この「花粉症」の句に反応してしまった。そうなのだ。わたしも花粉症に悩まされていて、この5月に入ってやっとその陰鬱な症状から開放されたところだったからだ。この作品の季語は「花粉症」、季節は春だろう。だろう、と推測的表現になったのは、一年を通して花粉症に悩まされている人がいるからである。それに、一概に花粉症といっても、その発症の原因がスギだったりヒノキだったり、あるいはヨモギ・背高泡立草・ブタクサなどの草花であったりするからだ。
天気予報でスギ花粉の飛散予報が始まるのは、関西では2月の上旬、今年のスギ花粉飛散の終結宣言は4月の下旬だったから、花粉症であるわたし自身の体感から言っても、やはり季語としての「花粉症」は春である。秋に次いで好きだった季節が40歳を過ぎたころから憂鬱なる季節となり、暑がりのわたしが夏が来るのをひたすら待つようになった。かつて、「蜂飼ひの家族を抱く花粉の陽 福田甲子雄」という作品は、その季節になると思い浮かぶ俳句のひとつであったが、いまでは思い出すだけでなにやら鼻のあたりがむず痒くなる。
ちなみに角川の『図説俳句大歳時記』にも講談社の『カラー図説日本大歳時記』にも「花粉症」という言葉は見当たらない。一昨年全巻完結した『角川俳句大歳時記』には「杉の花」の傍題として「花粉症」があったが例句はない。最近刊行された『ザ・俳句十万人歳時記 春』(第三書館)には「生活」」の項に独立して「花粉症」があり、二十数句の例句が掲載されている。上掲の作品の「花粉症」もスギ花粉に違いない。一読、わたしの五感がそう訴えている。
上句「ピアスの穴」とは耳にピアスを装飾するために開けた「穴」のことだが、揚句の「ピアスの穴」は人間の皮膚にある無数の穴のことをイメージしているようだ。現にピアスは耳だけではなく、鼻、唇、臍、舌、乳首などに付けられることがある。その無数の穴をまるで「ピアスの穴」のように抉じ開けて、しかも「たくさんあけて」体内に侵入しようとするのが、他でもないこの「花粉」なのだ。
断るまでもないが、これはあくまでもデフォルメされたイメージであって、実際には鼻や喉の粘膜に付着してそこから体内に入るのだが、体にとっては異物である「花粉」の進入を防ごうとする抗体の反応が軽症ならクシャミや痒み、重症になると体の各部位に激痛を伴う諸症状となって現れ、日常生活に著しく支障をきたす。一読「ピアスの穴」には痛ましい響きを感じたが、再読「たくさんあけて」という詠いぶりから察するに、この作者の「花粉症」は比較的軽症なのに違いない。こういう作品に出会うと俳句はつくづく感覚の詩だと思う。
他に印象に残ったのは次の作品でした。
夏に入る肩甲骨をきしませて 杉山久子
太腿と尻の境目春惜しむ 近 恵
和をもつて目刺を焼いてをりにけり 星力馬
藤棚をくぐれば薄き母の影 玉簾
春の月愛に食事に口つかふ 中嶋憲武
指でつぽ紙の兜にむけて撃つ 菊田一平
■伴場とく子 「ふくらんで」10句 →読む■杉山久子 「芯」10句 →読む■一日十句より
「春 や 春」……近 恵/星 力馬/玉簾/中嶋憲武 →読む
縦組30句 近 恵 →読む /星 力馬 →読む
/玉簾 →読む /中嶋憲武 →読む■菊田一平 「指でつぽ」10句 →読む■Prince K(aka 北大路翼) 「KING COBRA」 10句 →読む
2008-06-01
【週俳5月の俳句を読む】鈴木茂雄
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