2008-07-20

林田紀音夫全句集拾読 027 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
027





野口 裕





百三十五頁上段に…

「金剛」時代の自選句を「青玄」に発表。(注、「風蝕」に掲載されている作品のみを抽出)

…とある。この部分の句の鑑賞は省く。


昭和二十五年、「青玄」発表句から。

幾日かの痰捨てに出る足寒し

咳軽く済むときのオリオン低し

冬枯の雨中へ出でて柩濡る
寒昴行く末は肋奪らるるか

句集未収録の病床吟四句が並ぶ。一句目の素材が珍しい。私がまだ子供の頃は、駅の待合などに必ず痰壺がおいてあったが、いつごろなくなったのだろうか。二句目は、これから咳がひどくなるという含意が少々見えすぎるか。三句目は、波郷の綿虫の句を連想させる。四句目は、破滅に対する怯えがストレートすぎるだろうが、この寒昴はいたましい。


 

人界を経つつ嵩増す春の川

林田紀音夫は、しばしば厭世家めいた口吻から離れた句を作る。誤って書いてしまうとも言えるかもしれない。この春の川はかなり人なつっこい。春の川を見つつ、見知らぬ人々に思いをはせる。例えその思いが厭世であっても、句の表面は明るい。

夏隣る壁へ画鋲を強く刺す

向日的な意志を感じる。「刺す」に、呪詛めいた効果を期待しているのだろうが、どちらかと言えば決断の強さが読みとれる。


 

昭和二十六年「青玄」発表作は、句集に取られたのが三十五句中六句。

風呂へゆく金を疲れて受取れる

…というような句もあり、取られなくて当然とも思うが、このばかばかしさはなんだか楽しい。

夜にまぎれゐて流星の予感せり

…よりも、

薔薇切つてなほ物足らぬ鋏持つ

麺麭を焦がす金魚死なせし水棄てて

…などの句にひかれる。死の予感が働かない日常生活に取材しての、滑稽と気取りの混交もまた彼の一面だろう。




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