【週俳6月の俳句を読む】
橋本 直
レモンの仲間
雪の日のやうな朝日が紫陽花に 佐藤文香
「雪の日のやうな」という朝日を形容する措辞が楽しい。「雪の日」とはいかなるものか、と考え出すと、実はそんなに一般性をもつ詩の言葉ではなく、解釈は一通りではすまない(私的には徹夜明けの朝日より白くやさしい灰色がかった光である)。確かにそれを把握する視点がなければ出てこない措辞である。直観的ではあるが、しかし、積み上げ積み上げした個の言語世界から、せり上がって出て来た言葉なんだろうと思った。紫陽花に差す朝日をこのようにつかまえるセンスに最も惹かれた。私のような無手勝流の者から見ると、そんな風に楽しいんだが、しかし、「伝統」派を自認する方々がこういう句をどのように御覧になるのかを、知りたくもなってしまう。あえて別の季の季語に歴史的仮名遣いで比況の助動詞を使うのなら、これは高いリスクを背負った句ということになってしまうのだろうか?
シトロンに手帖の路線図がうつる 佐藤文香
はじめのシトロンが良い。レモンの仲間で、クエン酸のクエン(枸櫞)にあたるとか。面白い言葉である。某氏なら「しとろん」と書くだろうか。でもこいつをひらがなにすると、カタカナで統合された記号の意味にすき間が開いて、「詩と論」とかがダジャレみたいに紛れ込む。シトロンでいいのだ。この「シトロン」と「手帖の路線図」の関係がとてもいい。柑橘類の表面は、イキが良ければ滲むオイルでぺかぺかしている。でも、鏡みたいに「路線図」が映る訳もない。複雑だが、とりあえず実態として終わりが見える、手帖の中の言の葉の交通網が、シトロンに「うつる」のであろう。それは、その先の網の目まで模索し構築する、作者/読者の立ち位置でもあるだろう。
■八田木枯「華」10句 →読む
■佐藤文香 「標本空間」10句 →読む
■齋藤朝比古 「縫 目」10句 →読む
■望月哲土 「草」10句 →読む
■大野朱香 「来し方」 10句 →読む
■榊 倫代 「犬がゐる」 10句 →読む
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2008-07-06
【週俳6月の俳句を読む】橋本 直
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