【週俳6月の俳句を読む】
ひらの こぼ
人の想いや記憶を照り返すかのように
あやめ咲ききつて古鏡となりにけり 八田木枯
古鏡で髪でも直しているんでしょうか。その古鏡に咲き切ったあやめが写っているんでしょうか。それとも古鏡の中に残像としてのあやめがいつまでも残っていて・・・ということなんでしょうか。とても詩的です。ジャポニスム。
砂粒の光り出したる水着かな 榊 倫代
海から上がって甲羅干し。水着についた砂粒も乾いてきます。でもそういうシーンを詠んだというだけではなさそうです。その人の想いや記憶を照り返すかのように光り出す砂粒。ズームアップがきいています。「光り出す」がいいですね。
夏の草逃亡の時見失う 望月哲土
「草」の読み込み10句。なかでもこの句に注目しました。なんだかドラマチックです。脱獄囚でしょうか。それとも虫とか獣なんでしょうか。含みのある句というのはいいですね。芭蕉の「夏草や兵どもの夢の跡」が隠し味。
仙人掌の花押し出してゐたりけり 齋藤朝比古
仙人掌と花は本来同じ仙人掌であるはずです。でもその仙人掌が花を押し出していると作者は見ました。この視点がなんとも俳句的で面白いなあと思いました。関係ないですが、先日観た映画「ザ・マジックアワー」のおかしさと通じるところがあるような気がします。
金属を通つてきたり夏の水 齋藤朝比古
夏の水の緊張感が伝わってくるようです。きりりと冷えていてほしい。「なにも言わない俳句」が想像を掻き立ててくれます。いいですね、こういう句。
峰雲の縁よりだらしなくなりぬ 齋藤朝比古
落ちのある俳句の面白さ。奇抜なことなどなにもなくて、でもなんだか可笑しい。「敵味方入り乱れたるシャワーかな」「左の目ばかり開きて昼寝覚」も同じ味わいです。
ががんぼの吹かれて自由とは違ふ 齋藤朝比古
なるほどと頷かせてくれる、そして切り返しがある…。これも作者のものの見方が俳句なんだと思います。
■八田木枯「華」10句 →読む
■佐藤文香 「標本空間」10句 →読む
■齋藤朝比古 「縫 目」10句 →読む
■望月哲土 「草」10句 →読む
■大野朱香 「来し方」 10句 →読む
■榊 倫代 「犬がゐる」 10句 →読む
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2008-07-13
【週俳6月の俳句を読む】ひらの こぼ
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