2008-08-10

林田紀音夫全句集拾読 030 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
030




野口 裕





ドラム罐積むに地上を広く占む
ドラム罐叩きて悪き音愉しむ

ドラム罐洗へば夕日油染む

日傭の乳房が重くすぐ跼む

日傭のばらばらの帰路顔を見ず

日傭の昼のやすみもうつむき勝ち
昭和二十年代後半、ある語を中心に何句かを連続して作る、というこころみをしきりとしている。ドラム罐では、二句目、日傭では一句目が第一句週収録。言葉に引きずられる、というよりも、生活の中で特に目立った事物を中心に句を組み立てると、中心になる語ができてしまうと言うことだろう。


 
劣情を抱き市電の席奪(と)らる

市電に乗ったら、きれいな人がいた。ちょっと見惚れている隙に、ねらっていた座席に他人が座ってしまった。あるいは、そのきれいな人に座席を奪られてしまった、というところか。若干の後悔、自嘲。

最近使われなくなった「劣情」という言葉が、戦後から今日まで、人々の精神世界の移り変わりを思い起こさせる。「男女席を同じうせず」と、「見ただけで姦淫になる」が奇妙に入り交じったところから、「劣情」を大っぴらに表現できる地点まで。市街地の風俗はそれにあわせるかのように、市電から市バスへと変貌している。

 

おそらく時代背景を考えないと分かりにくいだろうという句が、昭和三十年「青玄」発表句には多い。

ナパーム弾も諾いし果て馘首さる 臨時工に過ぎず徹夜に応ぜしか

朝鮮戦争は、昭和二十八年七月に停戦を迎えているのでそれ以後の句か。前句は句集収録。




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