2008-08-31

林田紀音夫全句集拾読 033 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
033





野口 裕




夜も稼ぐ旋盤の底にある戦争

戦火の荒廃が日傭を往来さす

広場に風荒れ日傭の金渡る


昭和三十二年「十七音詩」より。朝鮮戦争が念頭にあるかと思われる句。句集に収録されていないこれらの句は、紀音夫の戦争句を考える上で参考になる。

昭和三十六年から始まる紀音夫第二句集に頻出する戦争のイメージ(第一句集では意外に少ない)は、朝鮮戦争を経て沈殿してきた太平洋戦争時の戦争体験に基づくものなのだろう。どこか一般化した戦争という趣があり、体験を直接扱ったものとは考えにくい。


胸の嬰児に軍艦色の薄暮迫る

雨傘の黒追う泥の戦死者たち


軍艦を沈めた色の哺乳瓶


塹壕の夜が酔余の眼に積もる


手花火の暗さ軍港よみがえる


第二句集から、長女誕生の頃の句を拾ってみると、かなり戦争のイメージを持った句を見つけられる。現在の安定した生活と、太平洋戦争時の過酷な体験。その二重の景色をつなぐのが、朝鮮戦争の頃の不安定な雇用体験ではないだろうか。

また、安定した生活と戦争体験という二重の景色を詠った句として、思い出されるのは三橋敏雄あるいは攝津幸彦になるだろうが、その先駆者として林田紀音夫を位置づけできるかもしれない。これにはさらに綿密な考証が必要だろうが、思いつきを書き散らすこの文章の及ぶところではない。




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