〔週俳7月の俳句を読む〕さいばら天気
「野生」に属する言い方
そういえば、「ぬの」とは言わない。「きれ」と言っていた。関西地方だけの方言だろうか。辞書で「きれ」を引いてみると4番目に「(「布」「裂」とも書く)布地。生地。」とあった。
自分の中のイメージでは、「ぬの」はちょっと厚くて毛羽だった感じ。「きれ」は薄く、さらさらとしている。だから…
いちまいの布となりたる南風 北川あい沙
…にある「布」は、「きれ」と読みたい気がするが、一般的には「ぬの」なのだろう。
ところで、風というものは、目に見えない。俳句には「色なき風」なんて季語があるが、もとより風に色などない。
見えないのに風が吹いていると私たちがわかるのは、例えば肌に感じたり、例えば風の証拠を目にしたりするからだ。風が「いちまいの布」となるとき、すなわち、物干し竿などに干された布が揺れたり、はためいたりするとき、風だとわかるのだ(なにをわざわざあたりまえのことを書いているのだろう、私は)。
この句は、南風が「いちまいの布」をはためかせている、というだけの句だ。だが、そんな無粋な言い方はしてしない。「なりたる」というのだ。
これは、科学や文化以前の「野生」に属する言い方かもしれない。数万年、数十万年前の人間は、ひょっとしたら、「布が風にはためいている」ではなく、「風が布になる」と理解したのではないか。
そう考えると、この句は、どこか遠いところで生まれたような気がしてくる。「布」が世界ではじめて生まれた頃、それがいつのことが知らないが、ともかく遠い遠い昔に生まれた句のような気がしてくるのだ。
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2008-08-10
さいばら天気 「野生」に属する言い方
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