〔週俳7月の俳句を読む〕興梠隆
泥のまま
巴里祭香典返しのバスタオル 丹沢亜郎
そういえば、香典返しとか引出物とか、この手のもらいものは、ピエール・何々とかフランスのブランド物が多いような。ふだんフランスとは全く無縁の生活を送っているのに、いつの間にかタンスの引き出しの中は、YSLみたいなワンポイントロゴの入った靴下やハンカチが増殖していて、おフランスな状態になっている。
蒟蒻の花の逆さまかも知れず 白濱一羊
蒟蒻の花は見たことがなかったので、一読この句の意味がわからなかったのですが、写真を見て納得。フレアスカートの女性が空から墜ちてきて地面にそのまま上半身が突き刺さって脚だけ剥き出しのような、シュールでエロティックな形態の花。山田風太郎の『妖異金瓶梅』に切断した女性の脚を抱えて邸内を歩き回る話がたしかあったと思いますが、そんな光景を思い出しました。
五月雨や老人の列前進す 奥坂まや
老いとは孤を深めることである、という言葉はどこに行ってしまったんだろう。日本の人口が減少に転じたという事実はまだまだ実感がないけれど、老人が行列を作っている光景はごく日常的に見かける。西行や芭蕉を気取った老人が増えるより、有名店や観光地に集団で押し寄せて、豪快に買い物をして、あっという間に次の場所に移動していく老人の方が実はこれからの日本にとって大事なような気もします。
青天の下のぬかるみ青嵐 千葉皓史
雨の上がった地面の上を青嵐が吹いていて、もっと上の方には晴れ渡った空がある。ぬかるんだどろどろの地面は、水たまりのように空の青さを映すわけではないし、吹く風に波紋を立てるわけでもない。空は空のままずっと拡がりいて、風は風のまま吹き過ぎてゆき、泥は泥のままそこにある。
それだけの景、それだけの俳句、だから俳句。
■ 丹沢亜郎 「暗い日曜日」 10句 →読む
■ 中田 剛 「有象無象」 10句 →読む
■ 白濱一羊 「ゴールポスト」 10句 →読む
■ 奥坂まや 番号順 10句 →読む■ 千葉皓史 夏桔梗 10句 →読む
■ 北川あい沙 柿 の 花 10句 →読む
2008-08-10
興梠隆 泥のまま
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿