〔週俳7月の俳句を読む〕藤田哲史
メロンと犯罪者
自分の脳の中を覗き見ることはできないけれど、
この概念とこの概念は近いところにあるな、というのがはっきりしている組み合わせがある。
たとえば、「葡萄」と「蜜柑」。どちらも果物。これは当たり前。
俳句を少し知っている人なら、「柿」と「法隆寺」。正岡子規。
椎名林檎なら「蝉の声」と「九十九里浜」。歌舞伎町の女王。
その人の場合、「自分はメロンを食べるたびに、いつもある犯罪者の名前を思い出してしまう」という。
トリッキーな繋がり方だ。
それら二つのものが、どういう繋がり方をしているのか考えてみるのは、おもしろい。
また、わからずとも、その人がおもしろい。そういうこともある。
いくつか組み合わせを並べてみたけれど、自然物と固有名詞は相性がいいのかもしれない。
父の日やベンチに吹かれ週刊誌 奥坂まや
ベンチの上の週刊誌。誰かが置いていった週刊誌。
質の悪い印刷で、インクがよく匂うのだ。
また週刊誌は、大人の男とよく似合う。
それも決してダンディズムなどとは縁のない、貧しい男と。
そのような格好の悪い存在を、きちんと愛している。
ベンチに吹く風が心地よい。のびやかな、気持ちのよい風が見える。
蟇歩む王道をゆくごときかな 奥坂まや
なんとなく「裸の王様」を連想する。豊かな腹の王様。
「王道をゆく」に、更に「ごとき」を繋げているので、
輪郭が淡い句となった。堂々とした蟇の歩みっぷりを詠も
うとする一方でどこかしらに他の意をもたせようとしているのか。
武蔵野の夏たけなはの小径かな 千葉皓史
夏は終わりごろが一番暑い。「たけなは」に、夏の終わりごろの暑さが表れている。
余分な要素はあまり使わないようにしていて、端正な句。
それは他の作品にも見られたこと。
小経の両側には、夏草が充満していたり蝉の声がうるさかったり
するかもしれないものの、あえていわずに一句を終えている。
■ 丹沢亜郎 「暗い日曜日」 10句 →読む
■ 中田 剛 「有象無象」 10句 →読む
■ 白濱一羊 「ゴールポスト」 10句 →読む
■ 奥坂まや 番号順 10句 →読む■ 千葉皓史 夏桔梗 10句 →読む
■ 北川あい沙 柿 の 花 10句 →読む
2008-08-03
藤田哲史 メロンと犯罪者
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