2008-08-03

小林鮎美 地球を俯瞰して

〔週俳7月の俳句を読む〕小林鮎美
地球を俯瞰して


牡丹の開ききつたる疲れかな   白濱一洋

開ききった牡丹の花びらがだれて、ぐったりしているように感じる。そして見ている自分もぐったりしている。大輪の牡丹は見事だけれど、その花の持つボリュームは見る人の精神状態によっては、精神的胃もたれ、のようなものを感じさせるのかもしれない。

俳句の中の「疲れ」や「気だるさ」は、なぜか読んでいると心地良い。



箱庭や地球の夜は影なりき   丹沢亜郎

そういえば夜ってでっかい日影なのか。

既に持っている知識のはずなのに、言葉にされると新鮮な驚きがあった。なんか、やっと実感を持って認識した感じ。

どこかを思い出したり、イメージしたりするときに、人は自由に意識をその場所に飛ばせるけれど、その動きや距離を意識することは普段あまりない。

でも、私は最初にこの句を読んだとき、あまりにもスムーズに、一気に視点が遠いところまで飛んだので、少し焦ってしまった。

「箱庭や」から句の中に入っていってこの句を読み終えるとき、私達は地球上にいながら、宇宙に浮かんだ地球を俯瞰して見ている。

そのスピードに、空間の広がり方に、非日常的な不思議な快感がある。



植物の絵を描いてゐる指涼し   北川あい沙

「植物」という言い方からして、たぶん屋外での写生ではない。

室内で、取ってきた野草か何かを素描している情景(というか指)を思い浮かべた。

色を塗るなら水彩だろう。

この句の指の涼しさはどこから来るものなのだろうか。まるで指だけが自分から独立しているような印象を受ける。指の涼しさに少し違和感を持っている感じ。

当たり前のことだけど、身体は意識の完璧な所有物ではなくて、感覚はコントロールできない。私の語彙と知識が少ないというのもあるのだろうけど、この指の涼しさの出どころは、言葉では説明できないと思う。だから強い実感があるんじゃないだろうか。

素裸になりどこからも遠くなる   同



丹沢亜郎 「暗い日曜日」 10句 →読む
中田 剛 「有象無象」 10句    →読む
白濱一羊 「ゴールポスト」 10句 →読む
奥坂まや 番号順  10句 →読む 千葉皓史 夏桔梗  10句 →読む
北川あい沙 柿 の 花 10句 →読む

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