2008-09-14

林田紀音夫全句集拾読 035 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
035





野口 裕





空いた椅子のおのれを責めて遠ざかる

現実の景としても、比喩としても誰にでもあり得る場面。おそらく句会であればそれなりの点数が集まるだろう。

しかし、「おのれを責めて」は心理描写としての重厚さを欠き、最大公約数的すぎる表現となっている。

句集収録時にふるい落としたところに見識がある。


火か水か薔薇挿して待つ次の時代

これは、珍しく大上段に振りかぶった句。「薔薇挿して待つ」が、ヒロイズムに酔った表現。これも、「おのれを責めて」か、句集収録時にふるい落としている。


  

茜流れる松は伐られる時間を待ち

昭和三十九年、「十七音詩」発表句。時期的に、松並木の街道から幹線道路の整備へと切り替わる頃か。それとも、大気汚染にやられた松枯れか。生から死に向かう場面があれば必ずすくい上げる感性。

胎児が蹴り深海の青濃い一夜

昭和四十年、「十七音詩」発表句。この年、嬰児誕生に伴う句多し。通常は生の賛歌となるべき場面が、生死定かならぬ幽冥漂う空間となる。胎児が母体を蹴る頃は安定期のはずだが、、死産の予感が働いたか。

この後、昭和三十三年からの「風」発表句に戻り、さらに「海程」発表句へと続く。


  

昭和四十年から昭和三十三年に戻る。

星ぞらひろし少女より体温享け

「風」発表句。高校生の頃天文部に所属し、夜通し隣の少女の体温を感じながら流星観測をした過去を思い出した。しかし、私の思い出とは別に、

赤い女黒い男に寝場所湿る

 と次の句はこうなり、途端に生臭くなる。

情事の裸身あり風葬の声こもる

愛し傷つき風葬の手足をのばす

結局、前掲の二句を落とし、第一句集に残したのはこの二句。「風葬」の一語が決定的だったことが分かる。





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