2008-09-28

林田紀音夫全句集拾読 037 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
037




野口 裕




骨を起こせば氷河期へ遡る星
パンの狐色に塗る停滞した朝日

埴輪の胴に凶の気体を充填する
夜行の濁音液化はやめる都市を発ち

「風」発表句は、面白いものが多い。昭和三十五年発表句が並んでいるとある一頁から、句集収録句を省いてもこれだけの気になる句が拾える。

骨→氷河→星と、推移する一句目。起こした骨は、病身の作者だろう。

パン表面の狐色の朝日。楽しかるべき朝の景を停滞させねば気が済まないいらだちを感じさせる。

埴輪が秘める凶事も、夜行列車の出発とともに液化の進む都市も、作者の心中のように鬱屈している。なおかつその表現は人の虚を突き、虚を突いた点のみが作者に慰安をもたらす。

当時、職を得て間もなく、失職した気分を引きずったままの作句であろう。いらだちをすくうものはないと知りつつの作句。

  

昭和三十六年の「風」発表句は、第一句集から第二句集への移行期にあたる。

舌を格納した焦点に機械の警官

「機械のような」警官、という意味だろう。ラウドスピーカーを口に当てて、群衆に向かって何かを叫んでいる警官が思い浮かぶ。作者の感情移入先は警官にはない。と言って、警官の舌が呼びかけている相手に向かっての感情移入もない。どこかに向かう、という明確な意志を欠いたまま外界を見ている。はっきりした景を明示しながら、作者の意図を忖度すると霧に包まれたような印象がある。

この句の五句先に、「漂うブイの耐蝕の意志流れる漁船」、六句先に「発酵漕の円ならびこころから痩せる」、第一句集の最後に並べられている句がある。句相互の関連はなさそうだ。



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