2008-10-05

林田紀音夫全句集拾読 038 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
038





野口 裕




島国の紙型にのこっていた刺殺

農耕の泥の細胞殺意継がれ

隣りの手が血塗られてふたたび暗転

血をにじませた悪縁の階降りる

1960年の浅沼稲次郎暗殺事件に、想を取った句群と考えられる。昭和三十六年「風」発表句。句集未収録。やはり、説明口調であることが弱い。二句目にやや面白みが認められる。

こうした句を読むと、うまく書けないからと事件に取材した句を書かなくなる傾向がある今という時代に対して複雑な気分に陥る。


  

湿つた夜景にみずから消える点を探す

漢文書き下し文調。
ふっと脳裏をよぎる隠遁指向。
若干の高揚感。
とりあえず、明日は考えない。


米を洗った異質の水も加速の河

米の研ぎ汁を河に流した。
白い水は、周囲の水もろともどんどん流れていく。
流れると同時に白さも薄れてゆく。
「加速」は、流れの速さとともに白い水が薄れてゆくことも含めての言葉だろう。


  

月明の飛行血を点じ或いは消し

夜間飛行機を見ての印象。主翼あるいは尾翼に明滅する照明を、「血」と感じたのだろう。珍しい素材。昭和三十七年「風」発表句。

いつものように膝まがる汽車雪国は知らず

すべてが矩形に作られた汽車の座席。雪国に行くのなら我慢の仕甲斐もあるが、たかが通勤車両では、膝も悲鳴を上げる。昭和三十七年「風」発表句。


死の灰の沈降泣けるだけ泣く幼児

浅沼暗殺事件と同じく、時事的な事件に反応した句。後年の吾子俳句の原型。昭和三十七年「風」発表句。




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