詩経国風「秦風」
車鄰
有車鄰鄰 有馬白顛 車あり鄰鄰 馬あり白顛
未見君子 寺人之令 未だ君子を見ず 寺人これ令せよ
阪有漆 隰有栗 阪に漆あり 隰に栗あり
既見君子 並坐鼓瑟 既に君子を見る 並び坐して瑟を鼓す
今者不樂 逝者其耋 今にして樂まずんば 逝きてそれ耋(を)いむ
阪有桑 隰有楊 阪に桑あり 隰に楊あり
既見君子 並坐鼓簧 既に君子を見る 並び坐して簧を鼓す
今者不 逝者其亡 今にして樂まずんば 逝きてそれ亡せむ
駟驖
駟驖孔阜 六轡在手 駟驖(してつ)はなはだ阜(おほい)なり 六轡手に在り
公之媚子 從公于狩 公の媚子 公に狩に從ふ
奉時辰牡 辰牡孔碩 時(こ)の辰の牡を奉ず 辰の牡はなはだ碩なり
公曰左之 舍拔則獲 公曰く之を左せよと 拔(やはず)を舍(はな)てば則ち獲
遊于北園 四馬既閑 北園に遊ぶ 四馬既に閑ふ
輶車鸞鑣 載獫歇驕 輶車(いうしや)鸞鑣(らんべう) 獫(れん)と歇驕とを載す
小戎
小戎俴收 五楘梁輈 小戎(せうじゆう)俴收(せんしゆう) 梁輈(りやうしう)を五楘(ごぼく)す
游環脅驅 陰靷鋈續 游環(いうくわん)脅驅(けふく) 陰靷(いんいん)鋈續(よくしよく)
文茵暢轂 駕我騏馵 文茵(ぶんいん)暢轂(ちやうこく) 我が騏馵(きしゆ)に駕す
言念君子 溫其如玉 ここに君子を念ふ 溫としてそれ玉の如し
在其板屋 亂我心曲 その板屋に在りて 我が心曲を亂る
四牡孔阜 六轡在手 四牡はなはだ阜なり 六轡手に在り
騏騮是中 騧驪是驂 騏騮をこれ中とし 騧驪をこれ驂とす
龍盾之合 鋈以觼軜 龍盾をこれ合はせ 鋈して觼軜(けつだふ)以ふ
言念君子 溫其在邑 ここに君子を念ふ 溫としてそれ邑に在り
方何為期 胡然我念之 方に何(いつ)をか期と為さむ 胡ぞ然く我これを念ふ
俴駟孔群 厹矛鋈錞 俴駟(せんし)はなはだ群し 厹矛(きうばう)錞(たい)に鋈(よく)す
蒙伐有苑 虎韔鏤膺 蒙伐苑たるあり 虎韔(こちやう)鏤膺(ろうよう)
交韔二弓 竹閉緄滕 二弓を交韔(こうちやう)す 竹閉(ちくへい)緄滕(こんとう)
言念君子 載寢載興 ここに君子を念ふ 載ち寢ね載ち興く
厭厭良人 秩秩德音 厭厭たる良人 秩秩たる德音
蒹葭
兼葭蒼蒼 白露為霜 兼葭蒼蒼として 白露霜と為る
所謂伊人 在水一方 所謂伊の人 水の一方に在り
溯洄從之 道阻且長 溯洄してこれに從はんとすれば 道阻にして且つ長し
溯游從之 宛在水中央 溯游してこれに從はんとすれば 宛として水の中央にあり
兼葭萋萋 白露未晞 兼葭萋萋として 白露未だ晞(かわ)かず
所謂伊人 在水之湄 所謂伊の人 水の湄(ほとり)に在り
溯洄從之 道阻且躋 溯洄してこれに從はんとすれば 道阻にして且つ躋(のぼ)る
溯游從之 宛在水中坻 溯游してこれに從はんとすれば 宛として水の中坻にあり
兼葭采采 白露未已 兼葭采采として 白露未だ已まず
所謂伊人 在水之涘 所謂伊の人 水の涘(ほとり)にあり
溯洄從之 道阻且右 溯洄してこれに從はんとすれば 道阻にして且つ右す
溯游從之 宛在水中沚 溯游してこれに從はんとすれば 宛として水の中沚にあり
終南
終南何有 有條有梅 終南に何か有る 條あり梅あり
君子至止 錦衣狐裘 君子至る 錦衣狐裘(こきう)
顏如渥丹 其君也哉 顏は渥丹(あくたん)の如し それ君なるかな
終南何有 有紀有堂 終南に何か有る 紀あり堂あり
君子至止 黻衣繡裳 君子至る 黻衣(ふつい)繡裳(しうしやう)
佩玉將將 壽考不忘 佩玉將將たり 壽考忘(や)まず
黃鳥
交交黃鳥 止于棘 交交たる黃鳥 棘に止まる
誰從穆公 子車奄息 誰か穆公に從ふ 子車(ししや)奄息(えんそく)
維此奄息 百夫之特 これ此の奄息は 百夫の特なり
臨其穴 惴惴其慄 その穴に臨んで 惴惴としてそれ慄る
彼蒼者天 殲我良人 彼の蒼なるものは天 我が良人を殲す
如可贖兮 人百其身 如(も)し贖ふべくんば 人はその身を百にせむ
交交黃鳥 止于桑 交交たる黃鳥 桑に止まる
誰從穆公 子車仲行 誰か穆公に從ふ 子車(ししや)仲行(ちゆうかう)
維此仲行 百夫之防 これ此の仲行は 百夫の防なり
臨其穴 惴惴其慄 その穴に臨んで 惴惴としてそれ慄る
彼蒼者天 殲我良人 彼の蒼なるものは天 我が良人を殲す
如可贖兮 人百其身 如し贖ふべくんば 人はその身を百にせむ
交交黃鳥 止于楚 交交たる黃鳥 楚に止まる
誰從穆公 子車鍼虎 誰か穆公に從ふ 子車(ししや)鍼虎(けんこ)
維此鍼虎 百夫之禦 これ此の鍼虎は 百夫の禦なり
臨其穴 惴惴其慄 その穴に臨んで 惴惴としてそれ慄る
彼蒼者天 殲我良人 彼の蒼なるものは天 我が良人を殲す
如可贖兮 人百其身 如し贖ふべくんば 人はその身を百にせむ
晨風
鴆彼晨風 鬱彼北林 鴆(いつ)たる彼の晨風(しんぷう) 鬱たる彼の北林
未見君子 憂心欽欽 未だ君子を見ず 憂心欽欽たり
如何如何 忘我實多 如何如何 我を忘るること實に多し
山有苞櫟 隰有六駮 山に苞櫟(はうれき)有り 隰(さは)に六駮(りくばく)有り
未見君子 憂心靡樂 未だ君子を見ず 憂心樂しむ靡(な)し
如何如何 忘我實多 如何如何 我を忘るること實に多し
山有苞棣 隰有樹檖 山に苞櫟(はうれき)有り 隰(さは)に樹檖(じゆすゐ)有り
未見君子 憂心如醉 未だ君子を見ず 憂心醉ふが如し
如何如何 忘我實多 如何如何 我を忘るること實に多し
無衣
豈曰無衣 與子同袍 豈衣無しといはむや 子と袍を同にせむ
王于興師 脩我戈矛 王ここに師を興す 我が戈矛(くわばう)を脩め
與子同仇 子と仇を同にせむ
豈曰無衣 與子同澤 豈衣無しといはむや 子と澤を同にせむ
王于興師 脩我矛戟 王ここに師を興す 我が矛戟(ばうげき)を脩め
與子偕作 子と偕に作(た)たむ
豈曰無衣 與子同裳 豈衣無しといはむや 子と裳を同にせむ
王于興師 脩我甲兵 王ここに師を興す 我が甲兵を脩め
與子偕行 子と偕に行かむ
渭陽
我送舅氏 曰至渭陽 我舅氏(きうし)を送り ここに渭陽(ゐやう)に至る
何以贈之 路車乘黃 何を以てかこれに贈らむ 路車乘黃(じやうくわう)
我送舅氏 悠悠我思 我舅氏(きうし)を送り 悠悠たる我が思ひ
何以贈之 瓊瑰玉佩 何を以てかこれに贈らむ 瓊瑰(けいくわい)玉佩
權輿
於我乎 夏屋渠渠 於(ああ)我や 夏屋渠渠たりしに
今也每食無餘 今や食ふといへども餘り無し
于嗟乎 不承權輿 于嗟乎(ああ) 權輿(けんよ)を承けず
於我乎 每食四簋 於(ああ)我や 每(つね)に四簋(しき)を食ひしに
今也每食不飽 今や食ふといへども飽かず
于嗟乎 不承權輿 于嗟乎(ああ) 權輿を承けず
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2008-10-05
高山作品サブテキスト 詩経国風「秦風」
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