2008-11-02

〔週俳10月の俳句を読む〕小林鮎美 ぶつかることなく

〔週俳10月の俳句を読む〕
小林鮎美

ぶつかることなく


月光は月の義足やちんちろりん  鳥居真里子

ちょうど今、稲垣足穂の『一千一秒物語』を読んでいるのだけれど、その中に「天は実は黒いボール紙で、そこに月や星形のブリキが貼りつけてあるだけだ」と言い張る人物が出てくる話がある。とても独特な世界観の話なのに、なんだかそう言い張りたい気持ちがわかる。

月の硬質な輝きはまるで人工物のようだ。

この句を読んで感じるのは、金属的な冷たさと、身体的な生暖かさ。その二つがぶつかることなく同居している。

月光を月の義足だと言い切ったことで、月の人工的で無機質な輝きに、曲線的な艶かしさを加わり、下五のちんちろりんの働きで、無理なく句の世界観の中に入っていくことができる、綺麗な句だと思った。


鍵閉めて色の深まる秋灯
  加藤光彦

夜、家々の灯を眺めてなんだか人懐かしい気持ちになることがある。そういう時は、自分はどこの灯の中にもいない、という状況のときだ。

この句の作者は一人暮らしだろうか。誰か、家族か恋人と暮らしているのだろうか。どうしても想像してしまう。〈歯ブラシのどれも濃き色神無月〉とあるから、やはり誰かと暮らしているのだろう。

鍵をかけるというのは酷く日常的な動作で、意識することはないけれど、外から自分や家族を閉ざすことによって守る、というとても重要なものだ。それによって秋灯が深くなる(気がする)のもわかる。

ただ、その家に守られている安心感や、親しい人との時間といったものを感じているだけではこの句は作れない。

作者は中で、鍵をかけながら、外からも眺めているのだ。そういう視点を持っていないと発見できなかった句だと思う。


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