2008-11-09

〔週俳10月の俳句を読む〕北川あい沙 木と繋がる

〔週俳10月の俳句を読む〕
北川あい沙
木と繋がる


繃帯の手首九月のさくらの木  鳥居真里子 (以下同)

<繃帯の手首>と<九月のさくらの木>には何の因果関係もない。けれどもその手首の痛みとだるさは、どこかの桜の木と繋がっているような気がする。それも九月の桜の木に。


心臓へそよとひとつき赤い羽根

赤い羽根とは共同募金の受領証であるらしい。<そよとひとつき>という愛くるしさと<心臓へ>の生々しさ。このあたりが心臓かしら、なんて思いながら誰かの胸元に赤い羽根をひと突きしている少女がいる。


遠火事に似てゆきずりの花すすき

花すすきのことを語るときに選んだ言葉が<遠火事>であり<ゆきずり>である。うすうすとした不安や胸騒ぎのようなものを抱えた花すすきの気配がある句。

月光は月の義足やちんちろりん 

理屈を言えば、月光とは光なのだが、ここでは<月の義足>ということになっている。それを納得できるかどうかだとしたら、私はものすごく納得した。なにしろそのあと、軽く切れながら<ちんちろりん>である。あまり深く考えるより、このねじれた世界に吸い込まれていくような感覚を楽しみたい。



高山れおな 共に憐れむ 詩経「秦風」によせて 10句 →読む 越智友亮 たましひ 10句   →読む 馬場龍吉 いざ鎌倉 10句  →読む 福田若之 海鳴 8句 →読む 加藤光彦 鳥の切手 8句 →読む 三村凌霄 艦橋 8句 →読む 小野あらら カレーの膜 8句 →読む 鳥居真里子 月の義足 10句 →読む

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