〔週俳11月の俳句を読む〕
陽 美保子
これはトマソン俳句だ
風呂敷は一枚の布秋の空 寺澤一雄
最近はエコバックなるものが流行っているが、こういう言葉はどこか胡散臭い。そんなこと今更大声で言うことでもあるまい。日本には昔から風呂敷という便利なものがあった。これはたった一枚の布である。たった一枚の布は邪魔にならず、しかも何にでもなる。物を包むだけではない。アメリカ人に風呂敷をお土産に持っていくと、スカーフにしてくれたり、花瓶敷きにしてくれたりした。こんな重宝なものはない。何にでもなるこのシンプルさ、自在さと秋の空がうまく呼応していてすがすがしい。
霜降る夜歯車かたく噛み合ひぬ 冨田拓也
この歯車ほんとうにがっちりと噛み合っていそう。「かたく」という言葉、「霜」と付き過ぎかもしれないが、相乗効果はあるだろう。寒さで肩まで凝りそうな霜の夜である。体がリラックスできないときは精神もリラックスできない。私はときどき歯を食いしばって寝ていることがあるが、これはストレスのためだそうである。そんなときは朝起きると肩が凝っている。この句を読んでいたら、自分の肩凝りを思いだしてしまった。
海の日の壁にとどめし巣のかたち 谷さやん
この巣は間違いなく燕の巣である。海辺近くに燕が巣を作っていたが、何らかの理由で取り払われたらしい。建物の解体の途中かもしれないし、鳥の糞が厭だったのかもしれない。しかし、巣を取り払っても、その跡形はしっかりと逆三角形に残っている。この光景、赤瀬川源平が見たら、喜んで「トマソン」に加えてくれるだろう。こんなものに目を留める俳人の目がなつかしく嬉しい。
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2008-12-07
〔週俳11月の俳句を読む〕陽美保子 これはトマソン俳句だ
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