2009-01-11

〔週俳12月の俳句を読む〕浜いぶき ちいさな傲慢、ひそやかな浪漫

〔週俳12月の俳句を読む〕
浜 いぶき
ちいさな傲慢、ひそやかな浪漫


雨月なり後部座席に人眠らせ  榮 猿丸

結句6音の、足取りをたしかめるようなリズムが、夜の深みへとそっと降りていくようにひびく。「人眠らせ」。この使役の主体は、作者なのか、それとも「雨月」なのか。おそらく、そのどちらでもあるのだろう。
作者を主体としてみるとき、そこにかすかに香る男性らしい傲慢さが、とても心地よく機能する。そのちいさな傲慢は、同時に男性だけのもてるひそやかな浪漫でもある。人を眠らせて、走らせる車。規則ただしく動くワイパー越しに、雨月がひかる。

この雨月もまた、人を眠らせるシンボルである。作者がそれを見上げるのは、ネオンまたたく首都高速の上ではないだろうし、駅のそばのにぎにぎしい通りでもないだろう。郊外の、どちらかというと"家路"に近いようなひっそりとした道。
ほんとうなら助手席にいたかもしれないひとが坐るのは、後部座席である。いつのまにか眠りにおちたそのひとと作者とのあいだには、今夜しずかな距離がある。その距離は、夜を滑ってゆくこの車と、雨に滲んで煙る月との距離に、よく似ている。

 

失礼ですがこちらの湖の方でせうか  上田信治

湖のそばは、湖の気配がする。
去年の初夏、相模湖へ行った。少し寂れた駅を降りると、GWだというのにほとんど店を閉めたままの商店街。湖はまだみえなかったけれど、たしかにこっちだという気がした。
歩道のない片側一車線を、湖の匂いのするほうへ下りていく。道にせり出してくる、民家の名前のわからない木や花。徐々に低くなってくる海抜。それでも、なかなか湖は眼下に姿をあらわさない。湖の気配は、すこし不安な気配だ。
歩きながら、つい、確かめたくなる。でも、なぜか誰にもきけずに、また坂を下りていく。
湖のそばに住む人に、湖のことを訊くのは、なんとなくわるいような気がする。




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