〔週俳12月の俳句を読む〕
樋口由紀子
今年の運勢は?
人参を並べておけば分かるなり 鴇田智哉
「人間」ではないですよね。ふとそんな読みをしました。たとえば、安部、福田、麻生各氏を並べたら、そりゃ、日本の現状はわかります。「変」が去年の漢字に選ばれたことも、客観的に物が見えていないということも。何も特定の政治家でなくても、人間でも句意は理解できそうですが、あまりおもしろくありません。でも、ここでは「人参」です。
人参は嫌いでした。給食で人参の出る日は学校にいくのがいやでした。今の人参は品種改良されて、あの独特の人参臭は抑えられていますが、人参に変わりありません。主張の強い臭いや色のする食べ物は嫌いです。
言葉も同様で、あまりに主張しすぎるものは苦手です。わかりすぎてもつまりません。
言葉としての「人参」がこんなにおもしろいとは知りませんでした。省略が有効活用しています。人参は何かの比喩ではなく、人参そのもので、並べておいたら、ひょっとしたら明日の天気とか、今年の運勢とかが分るのかもしれません。「人参」のかかえているもの、そんなものはないだろうけれど、あるような気がしてきて、俄然、想像力が活気づきました。
<ひなたなら鹿の形があてはまる>の日の方と鹿の形、<秋の日をひらけば網の目になりぬ>の秋の日と網の目、字面も分析したくなりました。
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冬座敷こんなところでご無体な 仁平 勝
場面はたぶん全然違うと思うのですが、<松茸酒煮立てる間に一首詠めそんな無体なことを言はれて 大口玲子>の短歌を思い出しました。
どんな人でも鼻唄交りに作品を詠むことなどはできないとわかっているのですが、<合鍵を忘れてもどる寒さかな><日向ぼこ何聞かれてもうなづいて><いちにちを終へて蒲団のありがたし>、意味の道は整備され、山も谷もあり、一休みの場所も設けて、スイスイと言葉が運ばれています。<数へ日や手を抜くことも芸のうち>、とオチもあります。苦労のあとが見えるのはまだまだですよと言われているような気がしました。
2009-01-11
〔週俳12月の俳句を読む〕樋口由紀子 今年の運勢は?
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